妹尾ゆふ子『翼の帰る処 下』

妹尾ゆふ子『翼の帰る処 下』(幻冬舎コミックス 幻狼FANTASIA NOVELS ,2008年11月,945円, ISBN978-434481493-6)読了。
前の巻に対するミーハーな感想は、2008/11/15

療養を名目に皇女から帝国主都での情報収集を命じられたヤエト。だが彼はそこで皇女に陰謀の魔の手が迫っていることを知る。皇女を救うべく、ヤエトは皇妹の護衛であったジェイサルドとともに北嶺へと向かう……。

皇女殿下と主人公の仲は進展したかしらと本を開いてみたら、いきなりヤエトが皇女から離れて南方に向かっていてびっくりですよ。
ゴタゴタはあっても基本的にのんびりしていた北嶺と違い、帝国主都に漂うのは陰謀の気配。そして事件は起こり、物語はダイナミックに展開します。まさかタイトルの示す意味がそういうことであったとは……。
今回はファンタジー度が低めかなと思ったらとんでもない、いかにも妹尾流の本格ファンタジーでありました。

虚弱な主人公は今回もコロコロと倒れつつも頑張ります。その主人公にほだされて、世話を焼く周りのおじさんたちがいい味だしてます。主人公プラス二人のおっさんの旅の会話がたいへんに楽しい。トリオ漫才?
小道具の使い方も印象的でした。角灯とか食べ物とか。

第三皇子のところにいた伝達官のおじさんも好きでした。……本当に残念です。
そして意外に世話焼きだった美老人のジェイサルドさんが素敵です。ヤエトに「名明し」のことを語っていますが、彼は誰かに名を明かされたのかもしれないと思いました。あの世界にはそれが出来そうな人外の存在がうろうろしてますからね。黒い髪の詩人とか、少年の姿をした神とか。

で、私が期待したロマンス度はといいますと……うーん……。なにしろ主人公が素晴らしく鈍感なので……。周りの人は全員分かっているし、皇女殿下だって思いっきり告ってるってのにねぇ。あそこまで鈍感だと、無意識のうちに「気がつかない」ようにしてるんじゃないかという気がしてきます。

続編があるそうですが、二人の関係がどうなるのかが気になります。
ただ皇女とヤエトの間にあるものは、単なるロマンスとは違う種類のもののような気がします。恋愛でなく友情でなく忠誠でなく、でもそれらを全て含む絆。「翼臣」という言葉を口にした皇女が求めるのは、そういったものだと思います。

下巻になってからはヤエトを慕う召使の少女なんてのも登場し、普通のライトノベルなら「これはハーレム化フラグか!?」と思うところですが、なにしろ妹尾ゆふ子の小説ですからねぇ……。

とても楽しめた作品なので、早く続きが読みたいです。
作者の妹尾さん、編集の内田さん、がんばって早く出してくださいね!!


(Alisato's 本買い日誌に載せたものですが、感想を募集している作者BLOG 積読山脈造山中: 翼の帰る処(下)へTrackBackが送れないので、こちらにも転載しました)

翼の帰る処 下 (3) (幻狼FANTASIA NOVELS S 1-2)
翼の帰る処 下 (3) (幻狼FANTASIA NOVELS S 1-2)妹尾 ゆふ子

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妹尾ゆふ子『翼の帰る処 上』

妹尾ゆふ子『翼の帰る処 上』イラスト:ことき(幻冬舎コミックス 幻狼fantasia novels ,2008年10月,945円, 978-434481466-0)読了。

「過去視」の恩寵の力を持つ病弱な尚書官のヤエトは、派閥争い巻き込まれ帝国の辺境に左遷されてしまう。左遷先で気楽な隠居生活をと思っても、帝国の流儀に慣れぬ土地の者たちに任せておいては公務はうまく回らず、その上、太守として赴任してきた皇女の副官に任命されてしまう。鼻っ柱の強い皇女と物分りの悪い部下の間に立たされたヤエトは……。

ひさびさの妹尾ゆふ子のオリジナル作品。いままでになく日常のディティールが印象的で、登場人物たちの会話も楽しい。
作中に出てくる《化鳥の騎士団》というのは『竜の哭く谷』ですね。ということはあの世界とつながっているのか。でもって、ちらっと話にでてきた黒髪の詩人さんは『魔法の庭』のあの人ということになりますね。……下巻に出てくるのかなー出てこないかなー。

馬鹿な部下をもったヤエトの読んでいて胃が痛くなるような中間管理職哀史が1章で終わってよかった……。
その後は36歳の主人公と14歳の皇女さまという個人的に超萌える二人のやり取りにニヤニヤしっぱなし。果たして下巻でロマンス度は上がるのか? なにしろ妹尾ゆふ子の小説だからなぁ……。最後のあの状況などは普通の小説だったらフラグ立ちまくりなわけですが……。

皇女様の視点で読みながらいろいろ想像すると、とても楽しいです。
やっぱりヘコんでいるときに一番欲しい言葉を一番欲しいタイミングで言われたら、恋に落ちますよね。その相手はどんなことをしてでも手に入れるに値しますよねーー! 頑張れ姫様! 相手はえらく鈍感なので、前途多難だとは思うけど。

(Alisato's 本買い日誌に書いたのですが、感想を募集している作者BLOG積読山脈造山中: 翼の帰る処(上)へTrackBackが送れないので、こちらにも転載しました)

翼の帰る処(ところ)〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス)
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2004年12月のおすすめ本

2004年12月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

大森 望/三村 美衣『ライトノベル☆めった斬り!』
清水義範『大人のための文章教室』
飛 浩隆『象られた力』

大森 望/三村 美衣『ライトノベル☆めった斬り!』

大森 望/三村 美衣『ライトノベル☆めった斬り!』
(太田出版 ,2004年12月,1554円, ISBN4-87233-904-5)
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[→感想 2004/12/02]


飛 浩隆『象られた力』

飛 浩隆『象られた力』
(早川書房 ハヤカワ文庫JA ,2004.9, \777 , ISBN4-15-030768-7)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo
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[→感想 2004/12/31]

清水義範『大人のための文章教室』

清水義範『大人のための文章教室』
(講談社現代新書 ,2004年10月,756円, ISBN4-06-149738-3)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo
[→感想 2004/12/30]

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2004年11月のおすすめ本

2004年11月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

桜庭 一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
喬林知《まるマ》シリーズ

桜庭 一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

桜庭 一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』イラスト:むー
(富士見ミステリー文庫 ,2004年11月,525円, ISBN4-8291-6276-7)
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[→感想 2004/11/17]


喬林知《まるマ》シリーズ

喬林知《まるマ》シリーズ
(角川書店 角川ビーンズ文庫)イラスト:松本テマリ
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『今日からマのつく自由業!』[→感想]
(2001年10月,460円, ISBN4-04-445201-6)
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『今度はマのつく最終兵器!』[→感想]
(2001年10月,460円, ISBN4-04-445202-4)
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『今夜はマのつく大脱走!』[→感想]
(2001年12月,460円, ISBN4-04-445203-2)
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『明日はマのつく風が吹く!』[→感想]
(2002年3月,460円, ISBN4-04-445204-0)
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『閣下とマのつくトサ日記!?』[→感想]
(2002年6月,440円, ISBN4-04-445205-9)
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『きっとマのつく陽が昇る!』[→感想]
(2002年10月,440円, ISBN4-04-445206-7)
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『いつかマのつく夕暮れに!』[→感想]
(2003年1月,440円, ISBN4-04-445207-5)
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『天にマのつく雪が舞う!』[→感想]
(2003.6, \480, ISBN4-04-445208-3)
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『地にはマのつく星が降る!』[→感想]
(2003.7, \460, ISBN4-04-445209-1)
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『お嬢様とは仮の姿!』外伝 [→感想]
(2003年10月,460円, ISBN4-04-445210-5)
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『めざせマのつく海の果て!』[→感想]
(2004年4月,460円, ISBN4-04-445211-3)
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『息子はマのつく自由業!?』外伝 [→感想]
(2004年5月,440円, ISBN4-04-445212-1)
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『これがマのつく第一歩!』[→感想]
(2004年10月,460円, ISBN4-04-445213-X)
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2004年10月のおすすめ本

2004年10月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

桜庭 一樹『推定少女』
林 亮介『和風Wizadry純情派』

桜庭 一樹『推定少女』

桜庭 一樹『推定少女』
(エンターブレイン ファミ通文庫 ,2004.9, \672, ISBN4-7577-1995-7)
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おすすめ。かつて自分が15歳の少女であったことに感謝を。そして15歳の少女であったことがない人間にはザマアミロといいたかったり。


林 亮介『和風Wizardry純情派』

林 亮介『和風Wizardry純情派』上下
(迷宮探索事業団広報部,2004/10/16, \3000)
迷宮探索事業団広報部

Web小説として発表された、現代日本を舞台にした『ウィザードリィ1 狂王の試練場』の恋愛小説『和風Wizadry純情派』の同人誌版。
縦書きは違和感があるかと思ったけど、ぜんぜん問題なしですね。
装丁もかっこいいし、内容も同人誌だなんて思えない。
普通に書店に並んでいる小説を読んでいるみたいです。(まあ、文体にちょっと癖があるんだけど)この人絶対商業デビューすべきですよ。

[→Web小説版の感想]

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2004年9月のおすすめ本

2004年9月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

沖原 朋美『待つ宵草がほころぶと』
毛利 志生子『風の王国』
阿島俊『漫画同人誌エトセトラ'82-'98』

沖原 朋美『待つ宵草がほころぶと』

沖原 朋美『待つ宵草がほころぶと』
(集英社 コバルト文庫 ,2004.9, \460 , ISBN4-08-600481-X)
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→[感想 09/08]


毛利 志生子『風の王国』

毛利 志生子『風の王国』
(集英社 コバルト文庫 ,2004.6, \540 , ISBN4-08-600435-6)
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→[感想 09/12]

毛利 志生子『風の王国 天の玉座』
(集英社 コバルト文庫 ,2004.9, \520, ISBN4-08-600477-1)
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→[感想 09/29]

阿島俊『漫画同人誌エトセトラ'82-'98』

阿島俊 『漫画同人誌エトセトラ'82-'98 状況論とレビューで読むおたく史』
(久保書店 ,2004年9月,2200円, ISBN4-7659-0048-7)
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→[感想 09/05]

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2004年8月のおすすめ本

2004年8月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

とみなが 貴和『Edge 4 檻のない虜囚』
清水 マリコ『ゼロヨンイチロク』
若竹 七海『スクランブル』
金水敏『ヴァーチャル日本語役割語の謎』
花丸編集部『ボーイズラブ小説の書き方』

とみなが 貴和『Edge 4 檻のない虜囚』

とみなが 貴和『Edge 4 檻のない虜囚
(講談社 講談社X文庫ホワイトハート,2004.8, \630, ISBN4-06-255742-8)
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『Edge』シリーズ第4弾。
今回は連続動物殺害事件。巻を追うごとに事件がスケールダウンしているような気がするけど、非常に面白かった。おすすめ。でも1から読んでね。
この作品は、宮部みゆき作品に出てくるような現実的な現代人の心の闇を描いた犯人のパートと、現実にはありえないような男装の麗人の天才的プロファイラーとこれまた現実にはありえないような万能超能力青年(の割には役立たず)の助手という探偵側のパートが危ういバランスで釣り合いをとっているところが魅力。

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清水 マリコ『ゼロヨンイチロク』

清水 マリコ『ゼロヨンイチロク
(メディアファクトリー MF文庫J ,2004.7, \609 , ISBN4-8401-1107-3)
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ライトノベルの体裁で出ているけれど、冒頭の文章の雰囲気からして児童文学的な匂いがする。天沢退二郎の『光車よ、まわれ!』を引き合いにだしている人がいて、なんとなく納得。ライトノベル的大団円に落ち着かないところまで含めて似ているかもしれない。

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若竹 七海『スクランブル』

若竹 七海『スクランブル』
(集英社 集英社文庫 ,2000.7, \500, ISBN4-08-747216-7)
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作品に登場する文芸部員の姿に自分自身の学生時代の姿がかぶって、蚊に刺されたところを掻くような、痛痒くて甘美な読後感。
ミステリとしてより思春期小説として面白かった。

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金水敏『ヴァーチャル日本語役割語の謎』

金水敏『ヴァーチャル日本語役割語の謎
(岩波書店 もっと知りたい!日本語 ,2003年1月,1575円, ISBN4-00-006827-X)

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なぜ物語の中の博士は「そうじゃ、わしが博士じゃ」としゃべるのか。『エースをねらえ!』のお蝶夫人の言葉のルーツは? でじこが語尾に「にょ?」をつけることの意味は?ステレオタイプという概念をもとに、現実に存在する・しないにかかわらず、いかにもそれらしく感じてしまう言葉づかいを「役割語」と名づけ、その歴史と用法を探る一冊。


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花丸編集部『ボーイズラブ小説の書き方』

花丸編集部/夢花李『ボーイズラブ小説の書き方
(白泉社 ,2004.8, \1500, ISBN4-592-73224-3)

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ボーイズラブを書き始めた人/投稿者がターゲットの結構まっとうな小説の書き方の本。ボーイズラブ小説についての薀蓄もそれなりに書いてありました。編集さんが書いているせいか、ボーイズラブに理解はあっても、のめりこんでいるって感じはしなくて、割と客観的だと思います。
あんまり過剰な期待をせずに一読されるのもよろしいかと。

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私のコバルト文庫ベスト3

最近ある作品の二次創作小説を読むことにハマっているのだが、私が気に入った作品の中には、初期の前田珠子を思わせるものがいくつかあって、自分がいかにマエタマが好きだった(過去形なのが悲しい)かを思い出した。『精霊宮の宝珠』とかね。

というわけで、唐突に私の好きなコバルト文庫ベスト3。(もうどれも品切重版未定なんですね。)
ファンタジー系ロマンス小説ばかりになってしまった。こういう作品が商業小説でもっと出ていれば、なにもわざわざ同人サイトまで出張って、読みたい設定の小説を探す必要はないのに。

前田 珠子『精霊宮の宝珠』

(集英社 コバルト文庫 ,1991.12, \440, ISBN4-08-611590-5)
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……好きな娘をいじめちゃうオランザの性格がとてもツボ。ヒロインににしてみれば迷惑な話だが。

精霊宮の宝珠
前田 珠子

おすすめ平均
精霊と泥棒の恋

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金 蓮花『蝶々姫綺譚 銀葉亭茶話』

(集英社 コバルト文庫,1995.6, \420, ISBN4-08-614081-0)
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……胡蝶の精と楓の精のせつない恋の物語。短編で不器用でせつない初恋を描かせたら金蓮花の右に出るものはいないと思う。

蝶々姫綺譚
金 蓮花

おすすめ平均
純愛!の一言。

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氷室 冴子 『銀の海 金の大地』

(集英社 コバルト文庫 ,1995.7, \480 , ISBN4-08-611615-4)
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……古代日本を舞台にした大河ロマン。ヒロインの親の代の話が好き。

銀の海 金の大地―古代転生ファンタジー
氷室 冴子

おすすめ平均
壮大な物語の始まり

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2004年6月のおすすめ本

2004年6月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

梨木香歩『家守綺譚』
桜庭一樹『赤×ピンク』
田中啓文『蹴りたい田中』
松田哲夫『編集狂時代』

梨木香歩『家守綺譚』

梨木香歩『家守綺譚
(新潮社 ,2004年1月,1470円, ISBN4-10-429903-0)
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家守綺譚
梨木香歩著

細やかな描写が美しい和風ファンタジー。
売れない物書きの主人公は、亡き友人の実家の家守りを引き受けている。
サルスベリの木に懸想されたり、床の間の掛け軸から亡き友がやってきたり、庭に河童が出てみたりするのだが、主人公は少しも動ぜず穏やかに日々を暮らしているというそんな物語。

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桜庭一樹『赤×ピンク』

桜庭一樹『赤×ピンク
(エンターブレイン ファミ通文庫,2003年2月,672円, ISBN4-7577-1283-9)
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赤×ピンク(ファミ通文庫)
桜庭一樹著
「女の格闘(キャットファイト)」を見せる非合法のファイトクラブで働いている女の子たちを描く連作短編集。彼女たちはそれぞれに問題をかかえ、中には格闘技のおかげで壊れかけた心をかろうじてこちら側に繋ぎとめていられる娘もいる。 生きるのが辛いという「おたくじゃない女の子」たちに読ませてみたいです。ポロっと出しちゃうファミ通文庫おそるべし。

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田中啓文『蹴りたい田中』

田中 啓文『蹴りたい田中
(早川書房 ハヤカワ文庫JA,2004.6,\735, ISBN4-15-030762-8)
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蹴りたい田中(ハヤカワ文庫 JA 762)
田中啓文著

タイトル(数年後にはネタ元が分からなくなっていそうなので、一応注記しておくと綿谷りさ『蹴りたい背中』)からもわかるとおり、駄洒落満載のバカSF短編集。
駄洒落だけで構成されていて内容がないのに、真に楽しむためにはオタク的教養をやたらと要求されるという困った本。誰か元ネタ大全を作ってくれないものかしら。

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松田哲夫『編集狂時代』

松田哲夫『編集狂時代
(新潮社 新潮文庫,2004年5月,700円, ISBN4-10-148021-4)
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ちくま文庫を創刊し、路上観察学会を設立し、『ちくま文学の森』や赤瀬川原平『老人力』を編集した松田哲夫の編集者一代記。『ガロ』に出入りしていたオタク青年が筑摩書房に入社し、倒産を経験し、いろいろあってヒットを飛ばして、いまじゃ社長です、という話。
たいへん面白かったです。この手の話は、書き手の自慢話に辟易させられたりするものですが、この本はあまり気になりませんでした。

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2004年5月のおすすめ本

2004年5月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

田村登正『ブラックナイトと薔薇の棘』
森 奈津子『からくりアンモラル』

田村登正『ブラックナイトと薔薇の棘』

田村登正『ブラックナイトと薔薇の棘』
(メディアワークス 電撃文庫 0810,2003年7月,620円, ISBN4-8402-2406-4)
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タイトルが印象的な、割とよくできたボーイ・ミーツ・ガール(ズ)物。ところどころ微妙に古臭いけれど、青春を過ぎた読者にとっては、それもまた味わい深い。
挿絵がたいへんにキュート。こういうオーソドックスなお話をこのタイトルと装丁で出しちゃう電撃文庫って凄いな思います。

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森 奈津子『からくりアンモラル』

森 奈津子『からくりアンモラル』
(早川書房 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション,2004年4月,1680円, ISBN4-15-208563-0)
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森奈津子による性愛SF短編集。
SMも出てきてたいへんにエロいんですが、実は切ない少女小説集でもあります。
お笑いの要素はほとんどなくシリアスで、(いろんな意味で)痛々しい物語ばかりです。こういうのが森奈津子の本質なのかも。

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2004年4月のおすすめ本

2004年4月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

古川 日出男『サウンドトラック』
成田良悟『バッカーノ! 1931』
コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』
舞城王太郎 『世界は密室でできている』

古川 日出男『サウンドトラック』

古川 日出男『サウンドトラック』
(集英社 ,2003.9,\1900+税, ISBN4-08-774661-5)
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ヒートアイランド現象で熱帯と化し熱病の蔓延する「東京」に三人の少年/少女は戦いを挑む。
地味なカバーを見て、ブンガクしてる青春グラフティなのかと思ったら、さすがは古川日出男、後半は『AKIRA』『魔界都市新宿』もぶっとぶド派手な展開でした。

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成田良悟『バッカーノ! 1931』

成田良悟『バッカーノ!1931 鈍行編』
(メディアワークス 電撃文庫,2003年8月,619円, ISBN4-8402-2436-6)
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成田良悟『バッカーノ!1931 特急編』
(メディアワークス 電撃文庫,2003年9月,598円, ISBN4-8402-2459-5)
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『バッカーノ!1931 鈍行編』での謎が『バッカーノ!1931 特急編』できれいに解明されていく。『鈍行編』では全然先がよめなかった。これだけの登場人物を多視点で動かすとは、超絶的な構成力。実にお見事。
読むときは必ず2冊一緒に購入して、『鈍行編』から読んでください。

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コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』

コニー・ウィリス『犬は勘定に入れません』
大森 望訳
(早川書房 海外SFノヴェルズ ,2004.4,\2940, ISBN4-15-208553-3)
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ロマンチックコメディ風タイムトラベル物。最初が舟遊び、真ん中がヴィクトリア朝ロマンチック・コメディ、最後にあちこちタイムリープ。 タイトルからして『ボートの三人男』なんだけど、ドロシー・セイヤーズも読んでおいた方が楽しめる。あとは、『エマヴィクトリアンガイド』【bk1/amazon/Yahoo】を読んでおくといいと思う。
執事萌えの人は必読のこと。

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舞城王太郎 『世界は密室でできている』

舞城王太郎 『世界は密室でできている』
(講談社 講談社ノベルス,2002年4月,798円, ISBN4-06-182246-2)
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改行のない特異な文体、ぶっとんだキャラクター、バカミスとしかいいようがない珍妙なトリックに彩られているけれど、描かれているのはサリンジャーの時代と変わらない、閉塞感に押しつぶされそうになっている青少年のナイーブな姿。私もちょっとだけ泣いてしまいました。ちょっとだけです。もう、大人だからね。

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恩田陸『木曜組曲』

恩田陸『木曜組曲』(徳間書店)読了。

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紹介

亡くなった女流作家の家に集う5人の物書きの女たち。届けられたカサブランカの花束をきっかけに、作家の死の真相が明らかに……。

感想

亡くなった女流作家とその周囲に集まった5人の物書きの女たちの計6人しか出てこなくて、ちょっと舞台劇のような趣。ラジオドラマでやったら面白いかも。(2004/06追記:映画になりました。)
恩田陸の作品はやたらと登場人物が多いので、誰が誰やらわからなくなることが常ですが、今回は5人しかいないのでちゃんと区別できました。それぞれの登場人物にどこかしら似通ったところがある(描き分けができていないともいう)点も、血縁関係があるからという理由でクリアー。

もうすこしドロドロした話になるかと思いましたが、意外に爽やかでしたね。男性が出てこないからかしら。なにげない日常的な描写がなぜか怖いのはこの作家の特性か、はたまた私の思い込みか……。
残された者たちの回想によって、亡くなった女流作家の実像がはっきりと立ち上ってくる話……かと思ったんですが、そういう話ではなかったようです。
(2000.01.24)

書誌情報

書名:『木曜組曲
著者:恩田陸
書誌:(徳間書店,1999年11月,1680円+税,ISBN4-19-861093-2)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo
書誌:(徳間書店 徳間文庫,2002年9月,520円,ISBN4-19-891759-0)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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森奈津子『ノンセクシュアル』

森奈津子『ノンセクシュアル』(ぶんか社)読了。

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紹介

男と女両方の恋人に振られたバイセクシャルの作家・詠子がであったのは、美しく上品なノンセクシャルの絵里花。次第に親しくなる二人だが、詠子につきまといはじめた絵里花の行動は異常さをエスカレートさせていき……。

感想

ハードカバー版の帯には「ストーカーは、可憐なお嬢様!? 性愛のタブーを妖しく描く、セクシュアル・サイコホラー!」とあったんですが、そういう話とは微妙に違うような……。

たいへん面白かったんですが、ホラーかなぁ、これ。
確かにサイコホラーなんですけどね、「おのれの腹に硬い貝を思い切り叩き付けてしまい、内蔵破裂で死亡してしまう」ラッコの件でむちゃくちゃうけてしまい、「もしかして……お笑い?」という疑問を胸に読み進んでいって結局最後までその疑問が晴れることはなかったという……。

絵里花に感情移入して読んでいたので、非常に楽しゅうございました。詠子に感情移入してたら、とても怖い話だった……かなぁ(ちょっと疑問)。個人的に一番好きなのは夕子さんですね。これで「美しい」という形容詞がついてたら最高だったのに。

現在はハルキ・ホラー文庫で出ています。カバー絵がとても美しい。

書誌情報

書名:『ノンセクシュアル』
著者:森奈津子
書誌:(角川春樹事務所 ハルキ・ホラー文庫,2001年2月,756円,ISBN4-89456-833-0)
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中井拓志『クォータームーン』

中井拓志『quarter mo@n クォータームーン』(角川ホラー文庫)読了。

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紹介

1999年9月、岡山県久米原市で起こった奇妙な事件が起こった。学生の自殺や集団リンチによる殺人事件が相次ぎ、その現場には「わたしのHuckleberry friend」というメッセージが残されていた。事件を追う捜査員は、やがて中学生たちの間にひろがるネットワークを発見する。

感想

いとうせいこう『ノーライフキング』の1999年版といった趣の作品。事件に関った人間たちが陥ったコンピュータ・ネットワーク社会の「罠」の怖さは、インターネットを徘徊する人間にとっては他人事でない怖さである。言葉は「ネットの外の人格」が意図せぬ方向に暴走し、ネット内に悪意が蔓延する。「ネット内の真実」にネットの外の世界までもが侵蝕される。
これはネット社会を体験していないと実感できない怖さなのかもしれない。

『SFマガジン』2000年2月号の書評欄(p.266)で東雅夫氏がすごく誉めてましたが、各所の掲示板で匿名・実名・仮名の発言者による批判やら中傷誹謗やらの発言にさらされたアズ……じゃなかったヒガシさんだから当然というか。

作者は自分でページを作ったことはないか、あるいはあまり技術的な知識はないらしく、細かい点では時々首をかしげる表現がないこともない。たとえば、メールアドレスなんかなくたって、どこからアクセスされたかの見当はつくでしょとか、新聞社のサイトへのリンクを貼ったからって自動的にバックリンクされるわけじゃないでしょ(p.330)などなど。
もっともインターネット社会の体験はあるようで、全体的にネット世界の描写はリアル。掲示板のやりとりや、メールでのやり取りなど妙に既視感を覚える。

[1999/12/27]

書誌情報

書名:『クォータームーン
著者:中井拓志
書誌:(角川書店 角川ホラー文庫,1999年12月,800円,ISBN4-04-346402-9)
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荻原規子『これは王国のかぎ』

荻原規子『これは王国のかぎ』(理論社)読了。

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紹介

失恋して最低最悪の気分の中で15歳の誕生日をむかえた「上田ひろみ」は、気がつくとアラビアン・ナイトの世界の魔神族(ジン)になって、王国のお家騒動に巻き込まれていた!

感想

ファンタジーの世界で失恋した女の子が自己セラピーする物語。氷室冴子『シンデレラ迷宮』(集英社コバルト文庫)とか、三岸せいこ「夜汽車にのって……」(少女マンガです。もしかしたら単行本未収録?)なんてのと同じようなお話。こういう物語には傑作が多いです。実感こもっているからかなぁ。この作品も面白いです。主人公が元気よくてけなげで可愛い。登場人物のハールーンもラシードもアズハルも可愛い、可愛い。語り口は女の子の一人称ですが、ちゃんと文章の書ける人が書いているからあぶなげがないし、多分作者自身の内部言語に近い言葉だからうそ臭くもない。

コバルト文庫とハードカバーの児童書の間に位置するジュヴナイルというか、正しいYAだと思います。 ほんとはこういう本はハードカバーじゃなくてソフトカバーで出して欲しいんだけど、そういうサイズの本があんまり定着しないみたいですね。新書よりちょっと大き目の、スニーカーブックスのサイズが一番ふさわしい気がする。
(1999.09.16)

ハードカバー版を読んで上記のような感想を書いたんですが、この本は後に中央公論新社から新書(C・novels fantasia)として再刊されました。

書誌情報

書名:『これは王国のかぎ』
著者:荻原規子
書誌:(理論社 ファンタジーの冒険,1993年10月,1733円,ISBN4-652-07301-1)
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書名:『これは王国のかぎ』
著者:荻原規子
書誌:(中央公論新社 C・novels fantasia,1999年9月,945円,ISBN4-12-500614-8)
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小川洋子『薬指の標本』

小川洋子『薬指の標本』(新潮文庫)読了。

感想

新潮文庫の新刊案内によれば、「彼に贈られた靴はあまりにもぴったりで……恋の痛みと恍惚を描いた二編」というのだが、そういう話なのか、そういう話なのか、これ?

 表題作と「六角形の小部屋」が収録されている。どちらも心の中にある何かから解放されるための場所へ「呼ばれて」しまう若い女性の物語である。

 表題作に出てくるのは「標本室」という場所で、人はそこへ封じ込めたい「何か」を持ってやってくる。主人公の事故で薬指の先をなくしてしまった女性は、その標本室で事務員として働いている。彼女と標本室の経営者である弟子丸氏とは、ある関係にあるのだが、それを「恋」と言い切ってしまうのは、ずいぶんと乱暴であると思う。ふたりの関係は、エロスというよりタナトスの側に偏っているように思えるからだ。
 標本室に集まるモノはどれもアヤしく、標本技術士である弟子丸氏も彼の標本技術室も限りなくアヤしいのではあるが、実際に非日常的な事件がおこるわけではない。しかし全体の雰囲気は幻想小説かホラーに近いものがあって、読む人によっては恐怖を覚えることもあるかもしれない。

書誌情報

書名:『薬指の標本
著者:小川洋子
書誌:(新潮社 新潮文庫,1998年1月,380円 (税込)+税,ISBN4-10-121521-9)
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2004年3月のおすすめ本

2004年3月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』
ケリー・リンク『スペシャリストの帽子』
清水 マリコ『君の嘘、伝説の君』
大森 望/豊崎 由美『文学賞メッタ斬り!』

シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』

シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』
大森 望編/大森 望訳/白石 朗訳
(河出書房新社 奇想コレクション ,2003.12,\1900+税, ISBN4-309-62182-1)

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私の大好きな「雷鳴と薔薇」が「雷と薔薇」というタイトルの新訳で収録されている。
1940年代から1950年代に書かれた作品なのに今読んでも古い気がしない。フレドリック・ブラウンあたりだと、「あー、50年代だぁ」という気がするのに。テッド・チャンと一緒に読んでもどっちが古いのか判断つかなかったり。

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ケリー・リンク『スペシャリストの帽子』

ケリー・リンク『スペシャリストの帽子』
金子ゆき子/訳 佐田千織/訳
(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 358,2004年2月,840円+税, ISBN4-15-020358-X)

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なんだかよくわからないけど、とても面白かった。
最高に面白かったのが「飛行訓練」と「雪の女王と旅して」。どちらも神話/童話がベースにあって(前者はギリシャ神話、後者はもちろんアンデルセン童話)、間に挟まる謎の文章の意味が最後になって判る。私は参照先がいろいろある話が好きなんだな。

出版社からの内容紹介には「軽妙なユーモア」という言葉がでてくるが、私にはその底にある痛々しいような喪失感/欠乏感のほうがより強く感じられる。

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清水 マリコ『君の嘘、伝説の君』

清水 マリコ『君の嘘、伝説の君』
(メディアファクトリー MF文庫J ,2003.10,\580+税, ISBN4-8401-0886-2)

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住人が次々と引越ししてしまってほとんど空家ばかりの古い公団住宅というノスタルジックな舞台設定、ネットを通じて広がる魔女伝説、描き出される思春期の少年少女の不安定さなどは、恩田陸作品に通じるところがある。
若い人よりも1980年代に青春を過ごした人間にアピールする作品だと思う。

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大森 望/豊崎 由美『文学賞メッタ斬り!』

大森 望/豊崎 由美『文学賞メッタ斬り!』
(パルコ ,2004.3,\1600+税, ISBN4-89194-682-2)

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出版を心待ちにしていた本なので、一気に読了。大笑いさせていただきました。何か飲みながら読むのは止めたほうがいいです。危険です。
芥川賞・直木賞などの選考委員と選評をまな板に乗せてるROUND4も楽しかったですが、自分が読んでいる作品の多いメフィスト賞、ファンタジーノベル大賞、SFの賞についてが一番面白かったです。やっぱり作品を知らないとピンとこないところはありますね。

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山田正紀『宝石泥棒』

山田正紀『宝石泥棒』(ハルキ文庫)読了。

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感想

書店にずらっと並んでいた(←1999年当時の話)ので、ついつい手を伸ばしてしまったのが『宝石泥棒』。カバーの説明を読み、冒頭を流し読みして驚いた。こーゆー話だったのかぁ。ほとんどファンタジーじゃん。タイトルのせいで、あたしゃずっと『エスパイ』みたいなSFアクション物だとばかり思っておりましたよ。

甲虫を守護神に持つ戦士ジローは、恋する従姉妹ランへの思いをとげるために、女呪術師ザルアー、”狂人”チャクタとともに「月」を求めて旅立つ。という、ヒロイック・ファンタジーの雰囲気をたたえたSF。
ラストは間違いなくSFですが、この作品の「世界」の描写の素晴らしさの前には、ジャンル分けにこだわることなど無意味に思えてしまいます。重要なのは、作品がどれだけ「”ここ”にはないどこか」「”ここ”にはない何か」(=「幻想」)のイメージを描きだしてくれるか。

ファンタジー読みはさっさと本屋に走って、冒頭のむせ返るような熱帯雨林とそこに跋扈する幻獣たちの描写、第二章の草原の中にある奇妙な街の描写を堪能すべし。女呪術師ザルアーの描きかたは、ヒロイック・ファンタジーのお約束という気がしないでもないですが、まあいいでしょう。

書誌情報

著者:山田正紀
書名:『宝石泥棒
書誌:(角川春樹事務所 ハルキ文庫,1998年10月,987円,ISBN4-89456-461-0)
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レズニック『キリンヤガ』

マイク・レズニック 『キリンヤガ』(ハヤカワ文庫SF)

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感想

ようやく読了。
あまりにも居心地の悪い作品だったので、途中まで読んで放り出しておりました。

コリバの一人称で語られるにもかかわらず、その意見に同意できない――気持ちはわからないでもないが、納得はできないという(作者のねらいどおりの)宙ぶらりん状態が、どうにも我慢できなかったのですね。成人男性は遊んで暮らして、女は家畜扱いの世界のどこが「ユートピア」だよ、ふざけんな! ってなもんで。案の定「ユートピア」崩壊の兆しは女たちから始まるわけですが。

 私としては、ミモフタもない(笑)【林@不純粋科学研究所さんの感想】に救われましたです。そっかー、コリバってやっぱり誰が読んでも嫌な奴なんだ!
 この手の「思慮深く正しく善なる独裁的指導者」ってのは、現実のボランティア活動の場なんかには、結構多いような気がします。ベクトルが違えば革命家になっていたような男じゃないのかな、コリバって。

「空に触れた少女」は私も好きです。
 女性なら誰でも程度の差はあれ、こういう体験はあるだろうから、この話に共感するはず。そこがあざといっていえばあざといところで。ただ男性にも妙に受けがいいのは、多くのSF者のセルフイメージであるところの「特異な能力を持ちながら(それゆえに)世界に受け入れられない存在」を扱っているからではないかという気がします。(実際に能力があるかどうかは別の話)。
要するに「空に触れた少女」はSF者の潜在的な選民意識をくすぐるから受けたのだっていったら、石ぶつけられるかなぁ……。
(99.08.16)

書誌情報

書名:『キリンヤガ
著者:マイク・レズニック 内田昌之/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1272,1999年5月,861円,ISBN4-15-011272-X)

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高瀬美恵『アルーマ』

高瀬美恵『アルーマ』(幻冬舎文庫)読了。

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紹介

「カラオケで歌うとヤバイんだってさ…」
新人歌手珠姫の歌う『ALUMA』は、死んだ歌姫・綾乃のつぶやきを歌詞にした曲だった。珠姫が『ALUMA』を歌うとき、少女たちは綾乃の幽霊を見る。『ALUMA』は呪われた曲なのか?

感想

ジェントルゴーストストーリーというのかなぁ、現代の日本を舞台にした「幽霊」が出てくる話ですが、ほとんど怖くなかったです。 着地地点は、ホラーというよりは果てしなくファンタジーに近い感じで、面白かったです。


2章に出てくる、成長したシンジとアスカの会話みたいな、珠姫に捨てられただめだめ男・府川とそのガールフレンド(?)橋本の会話が笑えます。姉御肌のどすこい女(スモウレスラーっていうより女子プロレスラー風らしい)、橋本の暴走ぶりがすばらしいっ。橋本〜、橋本〜、かっこいいっ、愛してるよっ! ほとんど和製『汚れた守護天使』のノリ。

『ALUMA』に引き寄せられる思春期の少女たちの描写は、なまじ身に覚えがあるだけに見てて恥ずかしくなるほど「イタい」というか、痛々しいというか……。

『ALUMA』の歌詞の謎の使い方は、とってももったいなかった気がします。こんな大ネタなのに〜。
あんまり怖くないのは、印象的なシーンを描写するのが得意じゃないから?人間は描けるのに、描写ができない人なのですね。ホラーやファンタジーより広義のミステリーの方が向いているかも。


書誌情報

書名:『アルーマ
著者:高瀬美恵
書誌:幻冬舎 幻冬舎文庫,2000年10月,680円,ISBN4-344-40030-5
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グリフィス『スローリバー』

ニコラ・グリフィス『スローリバー』(ハヤカワ文庫SF)読了。

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感想

誘拐され、無一文で放り出されて富豪の娘が、身の代金を出さなかった親の所へも帰れず、ハッカーの女性のとこに身を寄せつつ、生活を再構成し、誘拐事件の真相を解いていく。これだけだったら、ただのミステリだけど、人々がIDチップで識別され、主人公の女性がバイオテクノロジーを駆使した下水再生場で働いているというのが、SFなところ。

主人公がハッカー女性と別れて、偽IDでまっとうな生活を始めようとしているのが”現時点”で、誘拐直後からの話や主人公の幼少からの話がカットバックで挿入される。こういう構成は読みにくいので、私はあんまり好きではないです。まあ、誘拐事件の真相を知ることで、主人公の再生が完了するので、こういう形になるのは仕方ないのかとは思うんですが。
下水再生場で事件が起こったりするのは、サスペンスフルで面白いです。

SFだけど、女探偵物を読んでいるのと同じような感じ。作者がレズビアンのせいか、ベッドシーンがほとんど女×女なのがちょっと変な感じ。いや別にいいんですけど、男と女が出てくると当然のごとく恋愛関係になだれ込む小説と同じような感覚で、女と女が出てくると当然のごとく恋愛関係になだれ込むというのが、なんか妙に感じただけです。でも、同性愛者の人たちは男女間の恋愛を描いた作品を読むたびに、こういう違和感を感じているんでしょうね。

書誌情報

書名:『スロー・リバー
著者:ニコラ・グリフィス/幹遥子訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫SF 1225 ,1998.3, 882円,ISBN4-15-011225-8)
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C.L.ムーア 『大宇宙の魔女』

C.L.ムーア 『大宇宙の魔女』(ハヤカワ文庫SF)再読。

大宇宙の魔女

コメント

ああやっぱりいいなぁ。 1934年の作品なのに60年以上も経った今読んでも古びていない、というより、ひたすら幻想的な描写で読ませる作品だから、古びようがなかったとも言えますね。火星にも金星にも空気があって、火星美人も金星美人もいて、熱線銃と宇宙船しかでてこない「SF」。その上、プロットらしいプロットもなくて、宇宙の無宿者ノースウェスト・スミスが謎の美女と出会ってアブナイ目にあって自力または他力で辛くも危機を脱出するという話がほとんど。(たまには文明を一個まるごと崩壊させたりもするけど。)
それでも未だにこのシリーズが私を魅了しつづける理由は、やはりその幻想風景の描写とキャラクターの魅力にあるだと思います。シャンブロウやミンガの処女やイヴァラといった「敵役」の美女だけでなく、主人公のくせに影が薄いといわれるノースウェスト・スミスと相棒のヤロールも一度読んだら二度と忘れられない魅力的なキャラクターなのです。
ファンタジー読みの皆さんにぜひともお薦めの古典「SF」であります。
古典SFって今読むともうほとんど「ファンタジー」なのね。非科学的で(笑)。
(1999/03/22)

初版が1971年で、現在は品切れですが1999年に一度復刊したので、探せばみつかるんじゃないかと思います。松本零士描く一糸まとわぬ美女の表紙に臆することなく手に取ることをお薦めします。あの表紙は今では、ちょっとアレでございますよね。手にするのに勇気がいるとか、余計な事を期待しちゃうとか、そーゆー表紙でありましょう。

ちなみにノースウェストシリーズは、『大宇宙の魔女』『異次元の女王』『暗黒界の妖精』全3巻ですが、残りの2冊は入手しにくいかも。

書誌情報

書名:『大宇宙の魔女
著者:C・L・ムーア 仁賀克雄/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 36,1971年,546円,ISBN4-15-010036-5)
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書名:『異次元の女王
著者:C・L・ムーア 仁賀克雄/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 62,1972年,367円,ISBN4-15-010062-4)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

書名:『暗黒界の妖精
著者:C・L・ムーア 仁賀克雄/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 82,1973年,367円,ISBN4-15-010082-9)
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山之口洋『オルガニスト』

山之口洋『オルガニスト』 (新潮社 新潮文庫,2001.9,\552+税)

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紹介

音大助教授のテオが手に入れた、ハンス・ライニヒという天才オルガニストの録音ミニディスク。ライニヒの演奏はテオのかつての親友で、九年前に事故で半身不随となりオルガニストとしての将来を絶たれたヨーゼフの演奏を思い起こさせた。果たしてライニヒは、ヨーゼフなのか?
第10回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

単行本版の感想

山之口洋『オルガニスト』(新潮社)読了。これは凄い。

なんとなく歴史物を想像していたので(『ムジカ・マキーナ』からの連想?)、舞台が現代(というか近未来?)で、いきなり電子メールが出てくるのには面食らった。音楽青春物といった雰囲気の前半部分は、あまり事件らしい事件が起こらないせいもあって、ストーリーより文体の方が気になっていた。装丁がいかめしいので、堅苦しい文体を予想していたのだが、文章は非常に読みやすい。ときどき妙な違和感を感じるのは、果てしなく独白に近い文体を使用しながら、三人称を使っているせいだったらしい。「私」という人称を期待していると、「テオは……」と来るので、ちょっと肩透かしを食らったような。たまに出てくる比喩表現が面白いと思った。やりすぎるとイヤミになるが、イヤミにならない量であると思う。「プロトコル」の語の使い方に、思わずニヤリ。でも、フツーの人の語彙にはないんじゃないでしょうか、「プロトコル」(笑)。

(以下ネタバレと思われる部分は伏字にする。伏字の内容はリンク先参照)
ラインベルガー教授が○○(*1) するところから、物語に引き込まれ、あとは一気。ミステリーからSF、SFからファンタジーへの展開は圧巻。 ○○○○○(*3)を予想していたので、○○○○○(*4)。でも、これってもしや『○○○』(*2)?

残念なのは、音楽に疎い私には、作中に出てくるバッハの曲がどういう曲なのかさっぱりわからないことで、ひょっとしたら、この作品の美味しいところを何割か逃しているのではないかという気がしています。
(1999.05.10)

文庫本版の感想

山之口 洋『オルガニスト』 (新潮社 新潮文庫,2001.9,\552+税)読了。


第10回日本ファンタジーノベル大賞受賞作の文庫化。文庫化にあたり大幅に改訂を施したとのことで、筋は変わらないものの、三人称だったものが、テオドールの一人称に変わり、いくつかの表現も変えられている。
ハードカバー版で私がひっかかった点は、ほとんど書き直されていたので、すんなりと物語に没入することができた。
(私が気になった「プロトコル」は「仲間意識」に変更されている。文庫版 p.41)

瀬名秀明の解説にもあるように、一人称に書き換えられたことによって、「ミステリー仕立てのサイエンスファンタジー小説」(私は最初この作品をそう読んだ)や「音楽小説」というよりは、「青春小説」としての面がよりはっきりしてきた。
この作品はテオとヨーゼフとマリーアという音楽を中心に結ばれた3人のあやういところでバランスをとっていた三角関係の物語であったのだ。そして三角形の頂点は、女性のマリーアではなく、ヨーゼフだったり、テオだったりする。

萩尾望都の作品に似てると思う。たとえば『十年目の鞠絵』や『マージナル』のゴーとイワンとアーリンの関係に。
作者自身が某掲示板で登場人物のイメージに萩尾望都のキャラクターを挙げているから、なんらかの影響を受けているのは間違いないだろう。なにしろ名前からしてテオドール・ヴェルナーなのだから。
(ハードカバー版を読んだときは全然気がつかなかった。テオドールは萩尾望都『小鳥の巣』の眼鏡の委員長。もっとも、『オルガニスト』のテオは、萩尾望都がもともとこの名をつけたかったという「錆びた栗色の髪の青年」を思わせ。ヴェルナーは、『トーマの心臓』のトーマ・ヴェルナーだ!)

というわけで、ハードカバーもっている人も買うべし。
表紙が怖いという人もいるけれど、建石修志画伯なんだからーそんなに嫌わないでー。

蛇足。萩尾望都キャラによる漫画版『オルガニスト』案
テオ……オスカーの入っているイアン
ヨーゼフ……ユーリとエーリックをブレンドしたジェルミ
マリーア……ナディア
音楽雑誌記者……ゴー博士
ラインベルガー教授……ペーブマン
あとのキャラは選定中


書誌情報

書名:『オルガニスト
著者:山之口洋
書誌:単行本 (新潮社,1998年12月,1680円,ISBN4-10-427001-6)
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書誌:文庫版 (新潮文庫,2001年9月,579円,ISBN4-10-101421-3)
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伏字内容






*1 爆死
*2 『歌う船』
*3 悲劇的結末
*4 ある種幸福な結末にほっとしました
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ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの『星ぼしの荒野から』(ハヤカワ文庫SF) を読みつつ、SFマガジンのティプトリー特集を漁る。なんかしらんが、うちには、ティプトリー特集だけはいろいろあるんである。

ティプトリーについて、書きたいことはいろいろあるのだけれど、とりあえず今、気になっているのは、どうして「彼女」が2回も”ブス”について書かなきゃならなかったのかということだ。「接続された女」そして「たおやかな狂える手に」。一番ありそうなのは、「彼女」が自分を”ブス”だと思っていたって話だけど。
”ブス”というのは、男性中心社会の階級制度においては最下層民なんだよね。二重に疎外されたほとんど人間扱いされない存在で、実際「接続された女」でも「たおやかな狂える手に」でも”ブス”な少女はそういう扱いをされ、そしてSFの展開の中でようやく「救われる」。そういうSFおとぎ話を書いた、書かずにいられなかったティプトリー/アリス・シェルドンという人間もまた、ものすごく疎外された存在だったように私には思える。

それはさておき、文庫本版とSFマガジン掲載版を読み比べたら、訳の違いが目に付いたので、メモしておく。ネタバレなので、未読の人は注意。

「たおやかな狂える手に」のラストの訳文

で、1993年12月号のSFマガジンに掲載された「たおやかな狂える手に」と『星ぼしの荒野から』に収録されている同作品では、訳が微妙に異なっているのを発見する。訳者はどちらも伊藤典夫氏。とりわけ大きな違いは、ラスト5行だろう。

『星ぼしの荒野から』では、以下のようになっている。

  キャヴァナ + キャロル
  愛と酸素から生

 ミル=ミルの決意はゆるがなかった。時がたったころ、どこかで誰か、強烈なあこがれを
こめ、星々を見上げる人間なりエイリアンがいた。すると聞こえたような気がしたのだ、
なにか……

が、SFマガジン1993年12月号では、以下のようになっている。

  キャヴァナ + キャロル
  愛と酸素に誓

 ミル=ミルの決意はゆるがなかった。時がたったころ、どこかで
誰か、強烈なあこがれをこめ、星々を見上げる人間なりエイリアン
がいた。すると聞こえたような気がしたのだ、なにか<声>が……

『SFマガジン1993年12月号』

石のメッセージに関しては、私は『SFマガジン』の方がいいような気がする。原文はどういうものなのだろう?

「スローミュージック」のラストの訳文

『星ぼしの荒野から』に収録されている伊藤典夫訳の「スローミュージック」と『SFマガジン』1989年12月号に掲載された今村徹訳のものをざっと読み比べてみて、びっくり。訳によって作品のイメージというのは随分と変る。

今村訳のジャッコは伊藤訳のジャッコよりも、若くて初々しい感じ。一人称が「おれ」の伊藤ジャッコは、性格悪そう(笑)。ピーチシーフも今村訳の方が若い感じ。まあ、ティプトリーの描く「男」としては、伊藤訳の方が正解かもしれませんが、私は、今村ジャッコの方が好き。

もっとも大きな違いは、ピーチシーフとジャッコがエアパークで出会う老人のキャラクターで、この違いは、登場人物と読者の前から「名前もしられぬ」まま姿を消すこの老人の正体を、伊藤典夫氏の方は気づいていたからだと思う。この老人の名前は多分アリス=ジェイムズ(つまり作者自身)。読者の興を削ぐような解説は一切行っていないものの、あとがきの記述と「”細動”」(p.277)、「おとこおんな」(p.286)といった記述を付き合わせると、伊藤氏が、この老人の口調に老女アリスの口調を重ねていたことは明らか。

ラストも伊藤訳と今村訳はだいぶ違う。「ピーチシーフ! おれの大事な人、もどってきてくれ!」(伊藤訳 p.303)って、だめですよ「おれの大事な人」なんて入れちゃったら、女はしらけちゃいますって。それに「彼は妖怪など欲していなかった」って……よ、妖怪ですか……!? (ちなみに今村訳では「亡霊」。原文は?)

お二方の訳したラストはこんな感じ。

それでもなお、地球人としての彼のエッセンスは、彼女のエッセンスを追って、閉ざされてゆく無限の霧の中へゆっくり動いてゆき、彼の姿をリヴァーに刻みつけた。亡霊のような白い乳鹿を追っていった愛らしい黒髪の娘を永遠に求め続けるかつて男だったものを。

(今村徹訳,『SFマガジン』1989年12月号 p.103)
それでもなお、彼の地上的なエッセンスは、閉じゆく無限の霧のなかをゆっくりと進んでいた。かつてひとりの男であったきらめく輪郭を<河>に浮かべ、おぼろな白いミルク鹿を追って消えた浅黒い肌の女を永遠に恋い求めながら。

(伊藤典夫訳,『星ぼしの荒野から』, p.304, ハヤカワ文庫SF)

この部分の比較だけでも、両者の訳の人物解釈違いというのは分かると思う。少年少女の今村訳に対して、男と女の伊藤訳。
私は生硬な感じはするものの、亡き妻を追って星になった男の神話を思い起こさせる今村訳の方が好き。伊藤訳だと神話っていうより、人間くさい。

メインは今村訳で、老人の出てくるところは伊藤訳ってのが、私にとってのベストな訳なんだけどなぁ。

書誌情報

書名:『星ぼしの荒野から
著者:ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア/著 伊藤典夫/訳 浅倉久志/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1267,1999年3月,882円,ISBN4-15-011267-3)
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小林泰三『玩具修理者』

小林泰三『玩具修理者』(角川ホラー文庫)読了。

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感想

第2回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。
弟を死なせてしまった少女が、何でも直してくれるという「玩具修理者」のところへ弟をつれていく――というのが表題作。凄いとは聞いていたが、確かに凄い。特にラストが……。

短い作品なので、立ち読みで読んでしまい、忘れられずに結局購入した。ホラーと銘打たれ、有名なホラーネタも入っててはいるがあまり怖くはない。それもそのはず、この作者、ほんとはホラーじゃなくてSFを書きたいヒトだったのだ。「酔歩する男」は、目眩のするような時間SF。これも凄い。

ということで、ホラー、SF、幻想文学のどの分野の読者をも魅了する本でありましょう。篠田節子といい恩田陸といい、最近こういう人多いですね。お薦め。ホラーだと思って敬遠せずに読むと吉。あ、でもエグイことはエグイので、グロテスクがだめなヒトは注意。
(1999.04.27)

書誌情報

書名:『玩具修理者
著者:小林泰三
書誌:(角川書店 角川ホラー文庫,1999年4月,504円,ISBN4-04-347001-0)
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リンダ・ナガタ『極微機械ボーア・メイカー』

リンダ・ナガタ『極微機械(ナノマシン)ボーア・メイカー』(ハヤカワ文庫SF)読了。

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内容

天才分子デザイナーでテロリストのボーアが作った違法な分子機械ボーア・メイカーは、適応性人工知能をもち、宿主の肉体まで自由に改変できる。使い方しだいでは、連邦の存在さえ危うくしかねない驚異の極微機械だ。このボーア・メイカーが盗みだされ、偶然のことからスラム街の女性フォージタのものになるが…
ローカス賞処女長篇賞受賞作。

感想

宿主の身体だけでなく他人の肉体や精神まで改変できる分子機械ボーア・メイカーを巡る争奪戦を描いたSF。ナノテクノロジーだけでなく、クローンを各地に用意しておいて精神だけネットワークでダウンロードするとか、脳の中に”枢房”という器官を作ってバーチャルリアリティ空間を実現させるとか、SF的ガジェットが怒涛のように押し寄せるので、読んでいてなんだかよくわからなかったり。でもプロットは要するにインディ・ジョーンズ物と一緒なので、ハードSF志向の人には物足りないらしい。誉めてるのはファンタジー読みとSF的ガジェットが好きなヒトですね。

私は割と楽しめましたが、なんだかひどく読みにくかったので、この作者の他の作品を読むかどうかは分かりません。夏別荘社(←しかし凄い名前)の描写や、フォージタの見る世界なんてのは、幻想的イメージにあふれていて、とても好みでした。

装丁は失敗だと思います。タイトルと装丁で、ハードSFを期待した人には期待はずれだったろうし、私のようなファンタジー読みはハードSFだと思って敬遠してましたから。この内容だったらもっと幻想的な表紙にした方が、内容を面白がる人の手元に届くと思うんですが。
(1999/04/21)

書誌情報

書名:『極微機械(ナノマシン)ボーア・メイカー
著者:リンダ・ナガタ/著 中原尚哉/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1243,1998年8月,861円,ISBN4-15-011243-6)
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2004年2月のおすすめ本

2004年2月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

恩田陸『蛇行する川のほとり』
京極 夏彦『豆腐小僧双六道中ふりだし』
高野和『七姫物語』

恩田陸『蛇行する川のほとり』全3巻

恩田陸 『蛇行する川のほとり 1』
(中央公論新社 ,2002年12月,476円+税, ISBN4-12-003336-8)
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恩田陸『蛇行する川のほとり 2』
(中央公論新社 ,2003年4月,476円+税, ISBN4-12-003389-9)
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恩田陸『蛇行する川のほとり 3』
(中央公論新社 ,2003年8月,476円+税, ISBN4-12-003426-7)
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上質な少女漫画の味わいのする物語。萩尾望都、大島弓子、内田善美、佐藤史生といった少女漫画作家たちの1970年から1980年前半にかけての輝かしくも懐かしい作品世界を、絵ではなく言葉だけで描き出している。
作者の恩田陸が同世代の読者に投げかけた目配せのようなモチーフを読み解いて行くのは楽しかった。

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京極 夏彦『豆腐小僧双六道中ふりだし』

京極 夏彦『豆腐小僧双六道中ふりだし 本朝妖怪盛衰録』
(講談社 ,2003.11,\2000+税, ISBN4-06-212214-6)読了。

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むちゃくちゃ可笑しくて、読んでいる間文字通り笑い転げて、家人に嫌がられました。(うるさかったらしい)字で書いた落語ですね。
豆腐小僧、馬鹿で可愛い。

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高野和『七姫物語』

高野和『七姫物語』
(メディアワークス 電撃文庫 0762,2003年2月,550円+税, ISBN4-8402-2265-7)

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七つの主要都市が先王の隠し子と呼ばれる姫君を擁立し国家統一を目指して割拠する国を、七番目の姫に仕立てあげられた孤児の少女の目を通して描く。
第9回電撃ゲーム小説大賞"金賞"受賞作で、中高生向け挿し絵付き小説、いわゆる「ライトノベル」として出ている本ですが、味わいは児童文学に近いです。
後宮の出てこない酒見賢一『後宮小説』といった感じ。

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2004年1月のおすすめ本

2004年1月に読んだ本の中からおすすめ本をピックアップ。

山尾 悠子『ラピスラズリ』
加地 尚武『福音の少年 錬金術師の息子』
岩井志麻子『女学校』

山尾 悠子『ラピスラズリ』

山尾 悠子『ラピスラズリ』
(国書刊行会 ,2003.9,\2800+税, ISBN4-336-04522-4)

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秘蔵のブランデーを楽しむように、年頭から少しづつ再読していたので1週間かかった。でも山尾悠子の作品はこれぐらいのペースで読んでちょうどいいくらいかもね。
山尾悠子の作品は半分夢うつつの幻想小説なので、物語の繋がりをうんぬんしても意味がない。迷路の中をさ迷うように、物語の中をさ迷うのがいいのだと思う。

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加地 尚武『福音の少年 錬金術師の息子』

加地 尚武『福音の少年 錬金術師の息子』
(ぺんぎん書房 ,2004.1,\1500+税, ISBN4-901978-16-0)

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あるアニメの二次創作作品としてパソコン通信ニフティにアップされ、のべ30万人が読んだという小説のオリジナル設定改定版。
ネタとなる作品が何かは知っていたが、二次創作作品としてのWeb小説を読んだことがなく、なるべくオリジナル作品だと思って読むようにした。
すばらしく面白かった。『デュアル〜ぱられルンルン物語』+古橋秀之『タツモリ家の食卓』の錬金術風味といった感じ。

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岩井志麻子『女学校』

岩井志麻子『女学校』
(マガジンハウス ,2003年2月,1400円+税, ISBN4-8387-1423-8)

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優雅な午後のお茶の席での甘美な意地悪の棘を含んだ会話に思えたものが、実は……。繰り返される暗転に物語は迷宮と化す。
思い出の中の女学校の物語。皆川博子を意識しているんだろうけど、多分これは岩井志麻子にしか書けない幻想小説。

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森博嗣『森博嗣のミステリィ工作室』

森博嗣『森博嗣のミステリィ工作室』(講談社文庫)

森博嗣のミステリィ工作室

内容

ミステリィを書く上で、影響を受けた100冊をセレクトした「ルーツ・ミステリィ100」、犀川&萌絵シリーズの自作解説「いまさら自作を語る」の他、同人誌時代の漫画、専門誌に寄稿したエッセィ、山田章博・荻野真・ささきすばる三氏が語る森博嗣像も収録。森ミステリィの魅力と秘密に迫る、充実の個人読本。
(「BOOK」データベースより)

コメント

ミステリ100冊について語ったコーナーとインタビュー、エッセイ、マンガなどで構成された本。

なんだかんだいいつつ森博嗣はミステリが好きなのね、というのがよく判る本。あと、たいそうな萩尾望都マニアだってのもよく分かる。いつもナナメのスタンスで物をいうあの方が、萩尾望都に関しては手放しで絶賛ですからね。森博嗣の絵柄が萩尾望都に似てると思う人はあんまりいないと思うんだけど、言われてみれば目の描き方が(ある時期の)萩尾望都の絵に似てるかも。

私が森博嗣の本を読んで影響があるなと思った作品はほとんど取り上げられていたので、ちょっと嬉しかったりして。赤川次郎を読んでいたというのは意外でした。日本のミステリは、あまり読まないとかいってるけど読んでるじゃん、と思ったことです。

これ読んで印象的だったのは、森博嗣がうれしそうにミステリを語っていることでした。北村薫あたりもそうですけど、自分の好きな本を嬉しそうに語るのが、初心者への最高の紹介の仕方なんですよね。自分の好きな作家が、そんな風に嬉しそうに紹介する本なら、読んでみたいと思います。ミステリは、そういうことをする人が多いと思います。

書誌情報

書名:『森博嗣のミステリィ工作室』
著者:森博嗣
書誌:(講談社 講談社文庫,2001年12月,714円+税,ISBN4-06-273322-6)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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涼元隆一『青猫の街』

涼元隆一『青猫の街』(新潮社)

青猫の街

紹介

SEの青年の友人が旧式のパソコン一台を残して消えた。インターネット、地下BBSを探索し、たどり突いたのは謎の組織「青猫」……。
第10回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作品。

コメント

システム・エンジニアの生態があまりにあまりにリアル。元SEのワタクシとしては、途中で本をなげだしたくなったくらい。ああ、暗い記憶が……。「これは俺のことだっーーー!」と叫んだSEはひとりやふたりじゃあるまい。今もSEやってるウチの夫にゃ読ませられないとマジで思った。

PC青春サスペンスとして楽しんでいたら、主人公が「青猫」と接触した時点から、いきなり電脳ホラーな展開。これは怖かった。実はこの本を読み終わったあと、封印していた他の人の書評を読もうとパソコンを立ち上げたところインターネットにログインできなくて、一瞬「青猫の呪いか!?」と蒼ざめた。システムを立ち上げ直したらちゃんとログインできましたけど。

「青猫システム」に関しては、ちょっと弱かったかなぁという印象。もう少しファンタジーしているものを予想していたんですが。安田ママさんのところに届いた【謎のメール(3月2日の日記参照)】の方が、ファンタジー的には面白いと思うけど、それだとVMの出番がなくなってしまうか。

作中に『街』と呼ばれるゲームがでてきて、チュンソフトのアレか?と思ったけど、違ったみたい。でもホームレスも出てくるし、ちょっと意識しているかなぁという感じ。
こういう80年代の『ASCII』購読者を対象にしているような作品を面白がるのは、日本ファンタジーノベル大賞の読者より講談社ノベルズの読者だろうになぁ。(レーベルの力っていうのは、結構大きいと思います。)コバルト出身じゃなければ、メフィスト大賞にふさわしい作品だったのにって、惜しがっている人はたくさんいる気がする。

これが面白かった人は古本屋で鳥井可南子『オンラインの微笑』(新潮文庫)なんてのを探してみるのもよいかも。パソ通にはまっている主婦が事件に巻き込まれるというミステリです。 1988年の作で舞台はインターネットじゃなくパソコン通信だけれど、オンラインの世界の絆とその危うさを描いたという点では、『青猫の街』の先駆的作品かもと思います。
(1999.03.28)

著者の涼元悠一(公式サイト)は、現在はゲームのシナリオライターとして活躍中。

この作品が書かれてから5年も経っているので、コンピュータ関連の内容は古くなっているかも。でもオンラインゲームが身近になってきたので、逆にリアリティが出てきたところもあるかもしれません。
(2004.03.22)


書誌情報

書名:『青猫の街』
著者:涼元 悠一
書誌:(新潮社 ,1998.12,\1500+税,ISBN4-10-427101-2)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo


書名:『オンラインの微笑』
著者:鳥井 加南子
書誌:(新潮社 新潮文庫 ,1990.1,\388+税,ISBN4-10-119611-7)
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恩田陸『球形の季節』

恩田陸『球形の季節』(新潮文庫)

球形の季節

感想

四つの高校が居並ぶ、東北のある町で奇妙な噂が広がった。「地歴研」のメンバーは、その出所を追跡調査する。やがて噂どおり、一人の女生徒が姿を消した。町なかでは金平糖のおまじないが流行り、生徒たちは新たな噂に身を震わせていた……。
田舎町の閉じた世界を覆う噂とその地に密かに伝わる伝承、やがて明らかになる秘密。

コメント

題材はとっても魅力的なのですが、どうにも「とっ散らかかった」小説だなぁというのが感想。

「とっ散らかった」印象を与える要因のひとつは、主役級の登場人物が複数いて、しかもそれぞれの書き分けができていないことにあると思います。女の子の側は、普通のイナカの子、外からきた子、超能力少女と、なんとなく見分けが付きますが、男の子の方は最後まで、何人の登場人物がいたのか把握できませんでした。
書き分けができないのなら、せめて「ふつう、ニヒル、博士/お笑い、ごついの、ちいさいの」という戦隊物のお約束を利用して欲しいものだと思ってしまいましたです。キングは、このお約束を上手に利用してますね。

噂が町全体に広まるほどの「閉鎖された場所」を描きながら、そういった状況に付きものの「悪意」がすっぽり抜けているのも気になりました。悪意ある人物というのは、確かに登場するのですが、そういった顕在化された悪意ではなく、町の人々すべての心の底に淀む善意と紙一重の「悪意」。「噂」が広がるためには、そういった目にみえない「悪意」が不可欠だと思うんですが、そういった要素がないなぁ……と。
(だいたいイナカの人間は「他人の不幸は蜜の味」だと思っているんだから、行方不明になって戻ってきた女の子を素直に受け入れるわけないじゃんと、イナカに住んでいてそのイナカが大嫌いな私なんかは思います。)

噂と事件と伝承と「あの場所」が、ジグソーパズルのようにきっちり納まったなら良かったんですけどねぇ。伏線の張りかたもイマイチだし。やっぱり構成力が欠けているのかな?
恩田陸は短編や、『光の帝国』や『三月は深き紅の淵を』といった連作短篇のほうがよいと思います。

(1999.02.03)

書誌情報

書名:『球形の季節』
著者:恩田陸
書誌:(新潮社 新潮文庫,1999年2月,514円+税,ISBN4-10-123412-4)
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メリング『妖精王の月』

O.R.メリング『妖精王の月』(講談社)

妖精王の月

内容紹介

タラの丘でキャンプした夜、少女グウェンの従姉妹フィンダファーは妖精王に攫われてしまう。グウェンは、彼女を連れ戻すため、妖精たちとの出会いに助けられながら、アイルランド北部の旅をつづけるが……。

コメント

現代のアイルランドにフェアリーランドが重なりあっているという設定がお見事。妖精たちはTシャツにジーンズ姿で街に現れたり、おんぼろ車でヒッチハイカーを拾い上げたりするのだ!冒頭のダブリン市で妖精王が使う魔法のシーンもすばらしい。クリスティーナ・ロセッティの『妖魔の市』を思わせる少女と妖精たちとのゲーム(ちゃんと食べ物のタブーが出てくる)も面白いし、「土地の王」がいまだに存在しているという設定もいい。
が、妖精たちはともかく、人間たちの人物造型が弱いのが残念。とくに主人公のグウェンの性格がいまひとつはっきりしない。「妖精物語」の主人公たちの行動をなぞるだけの薄っぺらな存在ではなく、もうすこし「小説」的な深みのある存在感が欲しかった。(マーガレット・マーヒーやデイアナ・ウィン・ジョーンズあたりと比べるとそのキャラクター造型の弱さが歴然)

せっかく妖精と人間の愛というワタクシ的ツボ押しテーマを扱っているのに、なんか「キャラ萌え」しにくい登場人物たちなのが、とても残念。 (少女漫画にしちゃえば、これでもOKだったかも。)
現代に生きる妖精たちの存在感はすばらしいので、一読をお薦めいたします。
これを読んで、アイルランドの風景を見たくなりました。

(1999.02.12)

書誌情報

書名:『妖精王の月』
著者:O.R.メリング/作 井辻朱美/訳
書誌:(講談社 ,1995年2月,1500円+税,ISBN4-06-207463-X)
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五代ゆう『はじまりの骨の物語』

五代ゆう『はじまりの骨の物語』(富士見ファンタジア文庫)

あらすじ

女戦士ゲルダは育ての親であり恋人である魔術師アルムリックと共に、雪の女王率いる<冬>の軍勢に対する討伐軍に加わっていた。だが、アルムリックの裏切りによって討伐軍は壊滅し、ゲルダは復讐の旅に出る。

コメント

北欧神話を下敷きにしたしっかりしたファンタジー。ファンタジア大賞を取ったというだけのことはあります。和製ファンタジーとしては、かなりポイント高し。

ただ、こういう展開になるには登場人物が「人間」でありすぎたかなぁ……と。
こういうファンタジーネタと女性の自立の問題を両立させるのは、なかなかに難しいと思います。妖精や神様の心情があまりにわかりやすいとファンタジー性が成立しなくなる気がするので。

アンデルセンの『雪の女王』を下敷きにしたファンタジーなのかと思ったら、『雪の女王』なのはヒロインの名前だけでした。
ひかわ玲子の<エフェ&ジリオラ>と似た感じがします。かすかに中山星香の匂いがします。

(1999.01.06)

書誌情報

書名:『はじまりの骨の物語』
著者:五代ゆう
書誌:(富士見書房 富士見ファンタジア文庫,1993年3月,580円+税,ISBN4-8291-2486-5)
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ディレイニー『アインシュタイン交点』

サミュエル・ディレイニー『アインシュタイン交点』(ハヤカワ文庫SF)

『アインシュタイン交点』

コメント

サミュエル・ディレイニー『アインシュタイン交点』(ハヤカワ文庫SF)を読みはじめる。
私は、キーワードや固有名詞をトリガーに、いきなり記憶の自動検索(ようするに連想ゲームです)が始まるアタマを持っているので、こういうタイプの小説は嬉しくってたまらない。

読みはじめていきなりジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』なので、ちょっと身構える。「アインシュタイン」も「交点」も出てこないファンタジーのような冒頭にとまどう。リンゴとオルフェウスの固有名詞をアタマに刻み込む。 p.57の「PHAEDRA」が引っかかるが、義理の息子に懸想した女という情報しか出てこない。が、p58の「宙返り(レプタルエス)」でついに自動検索のトリガーが入る。そっか、ミノタウロスの迷宮だぁ〜!
というわけで、なんとなく構造が飲み込めてくる。

ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』でやったこと(「意識の流れ」じゃなくて、「物語に神話を重ねる」の方)のSF版であるらしい。映画『黒いオルフェ』のSF小説版といった方がいいのかも。
(1998.06.10)

引き続き、『アインシュタイン交点』に挑戦。

表題の「アインシュタイン交点」は、ほとんど内容には関係がない。 表層的には、三万年の未来、異星からやってきた種族の青年が死んでしまった恋人を生き返らせるべく旅に出る話だが、その物語の上に(「下」かもしれない)ジェイムズ・ジョイス的にいくつもの神話が重なっている。
あまりにややこしい話なので、よくわからない部分も多い。多分再読、再々読の必要があると思う。

とりあえず最後まで読み終わり、英和大辞典とオヴィディウス『転身物語』(人文書院, 1981)で、気になっている固有名詞を調べ、読み取れた神話構造を整理してみる。

以下は、私の覚え書きである。

まず、基本となるオルフェウスのでてくるギリシャ神話のレベル。この話ではなぜかミノスが冥府の番人なので、「迷宮」と「冥府」が重なっていて、テセウスの物語が顔を出す。主人公は、オルフェウスで、キッド・デスは、冥府の王。

それから、グリーン=アイがキリスト、キッド・デスが悪魔であるキリスト教神話のレベル。(「処女生殖」というキーワードがあったのに、他の人の感想を読むまで気がつかなかったのが、ちょっと悔しい)

そして、ビリー・ザ・キッド神話のレベルとジーン・ハーロウの出てくるハリウッド神話のレベル。ビートルズ神話を介してロックン・ロールのほのめかしがあるらしいが、私にはいまいち読み取れない。

しかし、これらの神話の階層からどういう「図形」が出てくるというのだろう??

フェードラは、クノッソスの迷宮を作ったミノス王の娘でアリアドネの姉妹で、テセウスの妻であることを知る。(もちろん、義理の息子に懸想した女でもある) だから「わたしは、あんたを正しい迷宮へみちびく女でもないし」(p.59)なのか。
オルフェウスは、池田理代子『オルフェウスの窓』にも出てくるあの人なのだが、冥府から戻ったオルフェウスについては、こんな物語まで付いていた。

トラキアの人びとに、少年を愛し、まだ大人にならぬうちに人生の春と最初の花とを摘むことを身を持って教えたのは、じつにオルペウスその人だったのである。
(オヴィディウス『転身物語』p.345 ,人文書院, 1981)

おおっとぉ〜〜。 オルフェウスって、ゲイになったのか...。 これで、一気に他のことはどうでも良くなってしまう。
が、気を取り直して(笑)、引っかかる点のチェック。

・<ダヴ>について。dove と love は、果てしなく似ている。形も音韻も。

・あとがきにあったゆらぎを含んだ日本語のひとつは「かぐろい(p.224)」ではないだろうか。わざわざ「かぐろい」というあまり使われない形容詞を使うところがあやしい。原文は多分 dark だと思うが、「暗い」「黒い」に「隠された」の「隠(かく)」の音を重ねたのでは。

・オリジナル題名のFabulous, Formless Darknessは、あとがきにあるように『摩訶不思議な混沌とした闇黒』あるいは『信じがたい形なき暗黒』の他に、「寓話的(伝説的)な形なき闇」とも訳せると思う。むしろそっちの意味の方が「多層階層の神話による曖昧な小説」としてのこの本にふさわしい気がするが。

・ キッド・デスには、「夭折」の意味はあるだろうか(「青春のイメージは、いまなおぼくを悩ませる(p.182)」)。英語に「夭折」に当たる名詞はないようだが、フランス語にはどうだろう? 彼にまつわりつく鮫のイメージは何を意味しているのだろう?

・作中にはっきりと現れているわけではないが、絶対『黒いオルフェ』(「黒い娘をさがすはずが、君は銀色ときてる(p.218)」)とコクトーの『オルフェ』のイメージ(「ほかをさがすことだね、鏡のフレームのそとを――(p.230)」)は、重なっていると思う。 p.181の「ぼくの耳は漏斗だ。」は、コクトーでしょう。

・なぜ、キリストが「グリーン=アイ」なのか? 緑の眼って何だ?「オセロ」と関係があるのだろうか?キリストが「嫉妬」なんだろうか?
グリーン=アイは、go to the tree, hang there するわけだが、「十字架に架る」意味ならキリストでも、「木で首を吊る」意味だったらユダになってしまう。うーん、うーん、うーん。自分を「イスカリオテ」だというスパイダーは、途中で「ピラト」になっちゃうし...。「何もかもが変わっていくんだ(p.203)」というのは、メタファーとしての役割が変っていくってことなんだろうか?

丸一日考えてもよくわからないので、とりあえずこの本はこれで読み終えたことにしておく。
(1998.06.11)

某サイトで、この作品がポルノであるという意見を読み、誘惑に抗しきれず、そういう方向で3回目を読んでみる。「山刀」と「笛」が出てくるので、そういう風に読める可能性にも気付いていたのだが、あえて無視していたのである。(笑)

今度は、「山刀」「笛」はもちろん、「音楽」「ビート」「ロック」という音楽に関連する単語も全て性的なメタファーとして読み替えていく。すると、意外や意外、現れたのはポルノというよりセクシャリティの「違い」に目覚めた青年の寓話的な遍歴譚であった。( 寓話的というのは、その視点で読むと舞台が三万年後の未来であろうが1960年代現在であろうが、どうでもよくなってしまうからだ。)「男」はそういうことを考えないものらしいから、結局それは、男でない男=ゲイの物語とということになろう。(このあたり、橋本治の論理が入ってます。)

この読み方だと、神話的レベルではどうにも浮いてしまう「ラ」「ロ」「レ」という称号の意味がはっきりしてくる。オルフェウス神話にもきっちり重なる上に、ディレイニー自身の物語のも重なり合う。どうやら、私としては、これが一番すっきり納得できる読み方のようである。
(98.06.12)

「アインシュタイン交点」で検索をかけて、訳者の伊藤典夫氏のインタビューの載っているページをみつける。

ほら貝SF ディレイニーとの交点 −−伊藤典夫氏と語る

伊藤氏の読みでは、書くことと読むことの寓話となるらしい。翻訳やあとがきでは「寓話」という単語は出てこなかったから、あえてこの訳語を避けたと思っていいのだろうか?
(1998.06.14)

書誌情報

書名:『アインシュタイン交点』
著者:サミュエル・R・ディレイニー/著 伊藤典夫/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1148,1996年6月,524円+税,ISBN4-15-011148-0)
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新井素子『くますけと一緒に』

新井素子『くますけと一緒に』(新潮文庫)

内容紹介

ひとりぼっちの少女・成美の味方は、ぬいぐるみの"くますけ"だけ。くますけは成美とおしゃべりができる特別なぬいぐるみだ。でもこのことは誰にも内緒。事故で両親を亡くした成美は、ママの友達・裕子おばさんの家に引き取られることになった。裕子おばさんは、くますけにも優しくしてくれる。だけど、ある日、夢にパパとママが出てきて、自分たちを殺したのはくますけだって言うの。どうして!?本当にくますけが殺したの?


コメント

親に愛されず親を愛せなかった子供がぬいぐるみの力で、新しい両親を手に入れるというぬいぐるみホラーファンタジー。かわいらしい話というだけでは済まない怖さがあります。

私は新井素子の小説を巧いと思ったことは一度もないのですが、にもかかわらず彼女は他の少年少女ノベルズの作者とは違うホンモノの作家だと感じています。あのぽわぽわした文体や脳天気な筋や作者自身のキャラクターからは想像もつきませんが、時折作品にすさまじいほどの深くて暗い淵が見えるのです。ホンモノは、そういう淵からしか汲みあげられないのかもしれません。

新潮文庫版の解説は菅浩江。この解説者のセレクトはお見事だと思いました。ACの話だからこれ以上の解説者はいませんわなぁ。

(1998.02.10)

これが児童文学であれば、主人公は「成長」してくますけから離れるんでしょうけれど、そうはならないところが「ホラー」であります。
自分の価値観にひきこもってしまうあたりが、いかにも現在にふさわしいラストではないかと思います。もっとも親本の大陸書房版が書かれたのは1991年ですが。さすがは「ホンモノ」、先見性がある。

2001年に徳間書店からデュアル文庫版が出ましたが、もう新刊書店では入手不可のようですね。

書誌情報

書名:『くますけと一緒に
著者:新井素子
書誌:(新潮社 新潮文庫,1993年3月,438円+税,ISBN4-10-142602-3)
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書誌:(徳間書店 徳間デュアル文庫,2001年10月,562円+税,ISBN4-19-905077-9)
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クロウリー『リトル、ビッグ』

ジョン・クロウリー『リトル、ビッグ I』『リトル、ビッグ II』(国書刊行会)

リトル、ビッグ I

紹介

大都会の彼方、とある森のはずれに建つ広大な屋敷「エッジウッド」。そこでは「こちら」と「あちら」の世界が重なりあって存在していた。 19××年のある日、青年スモーキィは、屋敷の主の娘と結婚するため、奇妙なやり方でエッジウッドを訪れた。
エッジウッドで暮らすことになったスモーキィは、やがて自分がその一族にまつわる謎と神秘の世界にからめとられ、長い長い物語のうちに引きずり込まれていることに気づきはじめた…。世界幻想文学大賞受賞作。


コメント

「リトル・ビッグ」だと思っていたら、「リトル、ビッグ」、すなわち「小さい、大きい」という矛盾する二つの形容詞が並んでいる題名だった。この題名からピンとくる人もいるかもしれないが、中身はルイス・キャロル的イメージに満ちている。たとえば登場人物の名前、少女たちの写真、鏡を通り抜ける、森の中のテーブル等。また、[1]エッジ・ウッドのV 「森の中で」では『遠野物語』的展開の上に衣装箪笥(いうまでもなく『ナルニア』の重要アイテム)まで登場する。いったいこれは何だ?

登場人物たちの名前もDrinkwaterだのUnderhillだのMouseだのBirdだのFlowerだのWoodsだのMeadowsだのと、なにやら「あやしい」。ひょっとしてアレゴリー的に読み解かなくてはいけないものなのかもしれない。翻訳を通してだと元の単語がわからなくて、もどかしい。こうなると、瀬田貞二氏がフロド・バキンズの変名を「山ノ下氏」と訳したのも一つの手であったという気がしてくる。

FF7をデフォルトの名前で遊んでいる最中だったので、中に出てくるおばさんの一人が「クラウド」と呼ばれているのには参った。「クラウド」が出てくるたびにツンツン頭のクラウド君のイメージが浮かんでしまうのだ。

(1997.09.12)

ジョン・クロウリー『リトル、ビッグII』(国書刊行会)は、ある種のハッピーエンドにも関わらず、もの悲しい結末だった。

『リトル、ビッグ』の下巻なのだが、読むまでに2ヶ月も間があいてしまって、話を思い出すのに難儀をした。登場人物表が上巻にしか載っていないのが辛かった。

妙な話なので、あらすじには、ほとんど意味がないのだが、一応の整理のために記すと…。

エッジウッドに住む一族の長男オーベロンは、都会に出て、プエルトルコ系の美少女シルヴィーと恋に落ちるが、「かれら」の計画によって、二人は引き離されてしまう。
一方、エッジウッドから連れ去られた赤ん坊のライラックは、眠りにつく。
その頃、大統領に選ばれようとしていた男は、実は神聖ローマ帝国の皇帝であり、彼が支配者になることにより、世界は冬の時代へと突入する。(とはいえ、エッジウッドには、あまり変化はない。)
やがて、目覚めたライラックは、エッジウッドの一族を連れて、「あちら」へと向かうのだった。

でもこのあらすじは、あんまり信じないほうがよいと思う。繰り返すが、この物語はあらすじだけを追っても意味がないのだから。

エッジ・ウッドという屋敷が、あらゆる様式の寄せ集めであり、決して全体を把握できず、それでいて何かを象徴しているように、この物語自体も、あらゆる妖精物語の寄せ集めであり、決して全体を把握できず、それでいて何かを象徴している。

登場人物がオーベロンだったり、シルヴィーだったり、アリスだったりするのは、もちろん意味がある。登場人物の名前で、ピンときたアナタは正しい。名前は重要。名前に含まれた記憶までもが物語に流れ込む。ライラックやソフィーにも意味があるはずなのだが、この二つはよくわからない。ヴァイオレットとライラックは、アンドリュー・ラングの本だろうか?

手元に置いておくべき本のような気がするのだけれど、上下巻で6000円というのは辛い。
(1997.12.05)

書誌情報

書名:『リトル、ビッグ I』
著者:ジョン・クロウリー/著 鈴木克昌/訳
書誌:(国書刊行会 文学の冒険シリーズ,1997年6月,2600円+税,ISBN4-336-03580-6)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

書名:『リトル、ビッグ II
著者:ジョン・クロウリー/著 鈴木克昌/訳
書誌:(国書刊行会 文学の冒険シリーズ,1997年6月,2600円+税, ISBN4-336-03581-4)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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加門七海 『平将門魔法陣』

加門七海 『平将門魔法陣』『大江戸魔法陣』『東京魔法陣』(河出文庫) 読了。

コメント

この3冊はシリーズです。

作家の加門七海さんが、将門関係の神社仏閣めぐりをしながら、地図とにらめっこして、将門について調査をしたレポートが『平将門魔法陣』。

江戸四神相応図(東に青竜、西に白虎、南に朱雀、北に玄武というやつですね)に疑問を抱いた加門さんが、二万五千分の一地図を張り合わせた馬鹿でかい東京地図をふんづけながら、神社仏閣がつながる魔法陣ラインを探し当てたのが『大江戸魔法陣』。

どちらも、ノンフィクションなのにミステリさながらのスリリングな展開。『大江戸魔法陣』には、うちの隣町の神社がでてきて、びっくりしました。まさかご近所にそんなオカルトスポットがあったなんて!

そして『東京魔法陣』が、シリーズ第3弾。

徳川が江戸を守るために張った魔法陣の謎を解いた加門七海さんは、浅草と熊野の関係を探るうち、さらに巨大な魔法陣の存在に気づきます。
そして、徳川幕府が滅んだあと、どのように徳川の魔法陣が変形されていったか、そして首都東京がハイテク魔法陣によってどのように守られているかを解いていくのです。

ううむ、香港だけでなく、ニッポンにも風水戦争はあったんですねぇ。
この本によれば、山手線、放送局、区役所、郵便局などなども風水的結界を作るポイントであるのだそうです。
そういえば、たしかにテレビ局って怪談が多い。それでいったら、怪談が多い学校というのも何か意味がありそうですが。私の通っていた小学校は、江戸時代の投げ込み塚(行き倒れた人を投げ込む井戸)の跡地に建っておりました。

書誌情報

書名:『平将門魔方陣
著者:加門七海
書誌:(河出書房新社 河出文庫,1996年11月,485円+税,ISBN4-309-47307-5)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

書名:『大江戸魔方陣
著者:加門七海
書誌:(河出書房新社 河出文庫,1997年9月,580円+税,ISBN4-309-47336-9)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

書名:『東京魔方陣
著者:加門七海
書誌:(河出書房新社 河出文庫,1997年10月,540円+税,ISBN4-309-47337-7)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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Macavoy THE BELLY OF THE WOLF

R. A. Macavoy "The Belly of the Wolf (Lens of the World Trilogy)"

ハヤカワ文庫FTで出ていた、R・A・マカヴォイの《ナズュレットの書》3部作の最終巻。翻訳が出ていないので、仕方なく原書を読みました。


コメント

《ナズュレットの書》は、架空歴史ファンタジーとでも呼べばよいのでしょうか。ヴェロンニャ国王の右腕となるナズュレット(発音しにくい名前だ)の波乱の生涯を描く三部作です。語り口が一人称の手記の形をとっているので、時制がわかりにくくて、いささか読みにくいです。三部作のうちの2冊が出たところで、目録から消えて、結局は3巻目の翻訳は出ませんでした。

マカヴォイの作品は、絶対に予想したエンディングにならないのですよ。内乱を防いだものの、大団円にならないのが、このシリーズの特徴。(だから売れないのか。)ちょっと物足りないような、物さびしいような…。
結局この話は、王となるだけの血筋も才能も人望も機会もありながら、決して王になろうとはしなかった男の物語なのです。

英語の読解力がイマイチなので、正直いってクライマックスに何が起こったのかよく分かんないんですが、最後は娘のナーヴァの手記で結ばれています。ちょっと物悲しい…。

私はアーリンが大好きだったので、3巻目では、お亡くなりになっていて悲しかったです。まあ、時々出てくるんですけどね。

(1997.11.19)

《ナズュレットの書》についてもっと詳しく知りたい方は、私の解説より数倍も素敵で分かりやすい【りあんの本棚感想】をどうぞ。

あらすじ

ナズュレットは55歳、娘と共にCantonという港町に住んでいる。 アーリンは既に亡い。
その街で、彼はヴェロンニャ国王ルドフの訃報を聞く。噂では毒殺されたのだという…。
ナズュレットとその娘はその夜、刺客に襲われる。
船でCantonを後にした二人だが、船上で決闘で有名な画家 Dianos伯爵と知り合うことになる。
船長との争いに巻き込まれ、救命艇で脱出した3人は、伯爵の館へと辿り着く
どうやらナズュレットに気があったらしい伯爵を残し、ナズュレットと娘はRezhmiaへと向かう。

ナズュレットと娘は、ヴェロンニャで何が起っているかの情報収集をしつつ、Rezhmiaへと入る。情報は錯綜している。
彼は王宮で、首長(ナズュレットの叔母に当たる人物)と会い、ノルウェス地方(本来ならナズュレットの領地)が国王に対して反乱を起こしていることを知る。ナーヴァは、単身ノルウェスへ発つ。ナズュレットもまた、真相を知るため、馬でノルウェスへと向かう。
途中狼と闘い、名も知らぬ遊牧民の村に寄り、ようやくノルウェスに辿り着いたナズュレットは、ルドフの死がルドフの息子Benarの指示によるものだと聞かされ、 現在の国王であるBenarを殺すことを決意する。

Benarは、身の潔白を主張し、ナズュレットとBenarとDianos伯爵は、内乱を止める為ノルウェスへと向かう。
辛うじて内乱をふせいだナズュレットは、ナーヴァとも別れ、ひとりノルウェスを後にするのだった。

書誌情報

書名:The Belly of the Wolf (Lens of the World Trilogy)
著者:R. A. Macavoy
書誌情報: Lightning Source Inc ; ISBN: 0759204047 ; (2000/12/01)
ネット書店リンク:【amazon

この巻の翻訳は出ていないが、前日譚がハヤカワ文庫FTから刊行されていた。

書名:『世界のレンズ ナズュレットの書 1
著者:R・A・マカヴォイ 井辻朱美/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫FT 188 ,1993年12月,602円+税,ISBN4-15-020188-9)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

書名『死者を統べるもの ナズュレットの書 2
著者:R・A・マカヴォイ 井辻朱美/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫FT 199 ,1994年10月,602円+税,ISBN4-15-020199-4)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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ジョーンズ『九年目の魔法』

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『九年目の魔法』(創元推理文庫)は何回か読み返しているのだが、その度に新しい発見がある。

九年目の魔法


紹介

大学生のポーリィは、この9年間に実際にあったことと覚えていることが食い違っていることに気付く。まるで、過去が変えられてしまったかのように。彼女は、十歳の頃の記憶をたぐり寄せた。
近くの屋敷でお葬式があって、リンさんという男の人と友達になって…。あれは、本当にあったことなのだろうか?


コメント

失われた時を取り戻そうとする少女の愛と成長と闘いを描く、ホラー仕立ての魔法ファンタジー。
あらすじを説明すると、ネタを割ってしまうので、あんまり話せない。

私がよくいく書評ページの皆さんが、口を揃えて「面白い!」というだけあって、ものすごく面白かったです。(ただ、最後の論理がよくわからないんです(涙))

主人公のポーリィのところには、リンさんという男性からいろいろな本が送られてきます。 私が知っているのは、『ウィロビー館のオオカミ』『喜びの箱』『トムは真夜中の庭で』『木曜の男』『宇宙戦争』『『ペレランドラ』そして、『オックスフォード版バラード集』!
なんとなーく読み流していた、これらの書名が実は非常に重要な意味を持っているのが、最後にわかります。

もう一度ゆっくり読み返したいと思っています。

(1997.11.20)

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/浅羽 莢子訳『九年目の魔法』 (創元推理文庫,1994.9,\940+税)再読。
やっぱ面白いわー。最初に読んだのは1997年11月ですが、そのときに見えなかったものが、すこしづつ見えてきたというか。'NOW HERE' と 'NOWHERE' の関係とか、登場人物の関係とかね。

気になるのは、'NOW HERE' と 'NOWHERE'の関係と、'Fire and Hemlock' の意味について。何か出典があるのかなぁ。

7年周期じゃなくて九年周期なのは、『金枝篇』から来ているのだそうな。
『金枝篇』も読まなきゃダメか? 岩波文庫版は全巻もっているんだけど、トライしては冒頭で挫折しているのだ。

(2001.10.03)

作品中に出てきた本に関しては、以下のようなページがある。

銀の椅子小道具『九年目の魔法』 出てくる本の羅列
Club Chant『九年目の魔法』に出てきた本

書誌情報

書名:『九年目の魔法
著者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ/浅羽 莢子訳
書誌:(東京創元社 創元推理文庫 ,1994.9,\940+税,ISBN4-488-57202-2)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo


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菅浩江『末枯れの花守り』

菅浩江『末枯れの花守り』(角川スニーカーブックス) 読了。

末枯れの花守り 角川スニーカーブックス版 末枯れの花守り文庫版


内容紹介

心の闇に付け入り、人を花に変えて異界へ連れ去ろうとする闇の姫君たち。その前に立ちふさがるのは、花守りの青年 青葉時実。
日本の様式美に満ちた妖かしの世界。

コメント

菅浩江は、こういう和モノの様式美の作品を描かせると上手いですね。知識が、付け焼き刃じゃないからなぁ。

闇の姫君たちをも翻弄する元気なおばあさんの出てくる「老松」が、一番評判がいいようですが、私は「寒牡丹」「山百合」が面白かったです。
「寒牡丹」は、タカビーな女優志望の少女の話。最後の啖呵がカッコイイ。
「山百合」は、ようやく自分がアダルト・チルドレンだと自覚した菅浩江(いままで、知らなかったの?)が、AC(アダルト・チルドレン)の狡さといやらしさをめいっぱい描き出します。私自身、多少ACの傾向があるので、「うんうん、わかる、わかる」という感じでした。

角川スニーカーブックス版は、カバーと挿絵が波津彬子。内容も波津作品を意識しているような……。
文庫版の表紙は別の人で、挿絵もなし。波津彬子の挿絵も捨てがたいけど、どうしてもイメージが引きずられてしまうから、文章そのものを味わいたいのなら文庫版を読むほうがいいかも。

書誌情報

書名:菅浩江
書名:『末枯れの花守り
書誌:(角川書店 スニーカーブックス,1997年10月,800円+税,ISBN4-04-788702-1)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo
書誌:(角川書店 角川文庫,2002年3月,514円+税,ISBN4-04-412007-2)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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カード『ソング・マスター』

オースン・スコット・カード『ソング・マスター』(ハヤカワ文庫SF) 読了。

内容紹介

人々の心を奥底からゆさぶる"魂の歌い手"ソングバードを求めて、若き恐怖皇帝ミカルはソングハウスを訪れた。ミカルが老境に達したとき、ようやく彼のためのソングバードが見つかる。全銀河をその歌声で魅了するといわれたソングバード アンセットの生涯を描く。

コメント

これは良かった。人物設定が『エンダーのゲーム』と似たような感じですが、結局作家は一つのメロディを変奏するだけなのかもしれない。発想はアンデルセンの『皇帝と鶯』だろうと思うんですが、カードの手にかかるとこういう話になっちゃうんだねぇ。

前半は、歌手養成学校であるソングハウスでのアンセットの生活、中盤はミカルの元でのアンセットの生活、後半はその後の生涯を描いています。どうもカードという人は、寄宿学校を描くのが好きみたいで、ソングハウスでの生活は『エンダーのゲーム』につながるものがあります。アンセットもエンダーと同様に一種の天才だし。
能力のある人間が疎外されるというのを描くのも上手いですね、カードは。

カードはSFというより小説です。もちろんSF的アイデアは詰め込まれているんだけれども、基本は『モンテ・クリスト伯』とか『レ・ミゼラブル』を面白がるような小説読みの人が面白がる「小説」としての面白さだと思います。

(1997.10.14)

書誌情報

著者:オースン・スコット・カード/冬川 亘訳
書名:『ソング・マスター
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫SF 550 ,1984.3,\680+税,ISBN4-15-010550-2)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

これも現在品切れ中のようです。いい話なのになぁ……。

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ミルン『ユーラリア国騒動記』

A.A.ミルン『ユーラリア国騒動記』(ハヤカワ文庫FT)読了。

内容紹介

朝食時に空飛ぶ靴を履いて城の上を飛び回っていた隣国の王様の髭を矢で打ち抜いたことから、ユーラリア国と隣の国が戦争を始めた。戦争に行く王の代理として城に残された王女にベルベイン伯爵夫人の陰謀がせまる。そこへやってきたのは、遠国の王子、しかし彼は、ベルベイン夫人によってうさぎの化け物に変えられてしまい……。


コメント

戦争勃発の原因のばかばかしさでも分かるとおり、能天気でチャーミングなメルヘン。ベルベイン伯爵夫人も悪人というよりは、ちょっと困った人なだけだし、戦争も始まりと同じようにとっても馬鹿馬鹿しい方法で終結します。

ストーリー的にはいささか破綻してる感じですが、キュートな登場人物と想像力のジャンプの前にはそんなものは敵じゃない。(笑) なんといっても、ぶっとんだベルベイン伯爵夫人が最高。

かつて『ぶーけ』に三岸せいこさんという漫画家さんがいたのですが、その人のいくつかの作品のキャラクターは、この作品の引用であることがわかりました。この小説の中のいくつかの素敵な文章は、マンガにそのまま引用されています。どうも『ユーラリア国...』の読後感想が暴走した結果が、「ものみな緑の春の姫」や「夢見る星に降る雨は」だったようですね。はっきりいって、漫画の方がオリジナルをしのいでます。

三岸せいこさんは筆を折ちゃった人なんですが、なんとか新たに『ユーラリア国』の表紙を描いてもらって、復刊……っていうことにはなりませんでしょうかね。……無理だろうなぁ。

(1997.10.09)

書誌情報

ずいぶんと前に絶版になった本なので、入手は困難かも。

著者:A・A・ミルン/著 相沢次子/訳
書名『ユーラリア国騒動記
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 15,1980年1月,400円+税,ISBN4-15-020015-7)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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ゴールドマン『プリンセス・ブライド』

ウィリアム・ゴールドマン『プリンセス・ブライド』(ハヤカワ文庫FT)読了。

プリンセス・ブライド

コメント

『明日に向かって撃て』や『マラソン・マン』のウィリアム・ゴールドマンが、子供のころ好きだったフローリン国のS.モーゲンスターンの書いた<真実の愛と冒険の物語>の娯楽抜粋版を紹介する、という体裁の本。本編に入るまでのまえがきがやたら長いが、結構感動的なので、飛ばさずに読むこと。

絶世の美少女キンポウゲ、その恋人のウエストリー、父の仇を探す剣士イニーゴ・モントーヤ、心優しい大男フィジックといった魅力的な登場人物が活躍する手に汗握る冒険活劇……なのだが、ところどころで、ゴールドマンが顔を出してはシニカルに注釈を加える。要するに<真実の愛と冒険の物語>のパロディである。

読者を引き込む技はさすが。
ゴールドマンの皮肉な注釈の裏に、登場人物と物語への愛情が透けてみえて、後味は悪くない。

(1997.09.04)

書誌情報

書名:『プリンセス・ブライド
著者:ウィリアム・ゴールドマン/著 佐藤高子/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 85,1986年5月,780円+税,ISBN4-15-020085-8)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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アイゼンシュタイン『氷の城の乙女』

フィリス・アイゼンシュタイン『氷の城の乙女』 (ハヤカワ文庫FT) 読了。

氷の城の乙女

内容紹介

金属と織物をつかさどる魔法使いクレイは、見る者の心の望みを映す鏡に小さな少女の姿を見た。何年か経つうちに少女は、麗しい乙女へと成長し、クレイは乙女の正体を求めて旅にでる。探し当てた乙女アライザは、氷の城に住む、魔法使い見習いだった…。
妖魔の騎士』の続編。

コメント

面白いんだけど、主人公のクレイ・オルモルの独善ぶりが鼻について鼻について、腹が立つ。妖魔たちは魅力的だし、ヒロインも悪くないし、クリスタルの城の描写なんてすばらしいんだけど、主人公がねぇ〜〜。

前作の『妖魔の騎士』は、少年の自分探しの話でもあるから、主人公が馬鹿であっても一向にかまわないんだけど、今度は他人の心にずかずかと踏み込んで自分の価値観を押し付ける話なんだから許せない。言っていることは正論だけど、やっていることはキャッチセールスや新興宗教の勧誘とおんなじ。

ナンパしにきたのに格好つけるんじゃないっ!とか、偉そうに他人の生活に口出しすんなっ!とか、危ない仕事を他人に押し付けんなっ!とか、自分だけが正しいと思ってんのか馬鹿っ!とか、止めてくれということを勝手にやっておいて女に尻拭いさせるなっ!とか、まだまだ言いたいことはいろいろあるのですが、これくらいで止めておきます。

後半でついにヒロインも爆発するけど、全然応えてないと思うぞ、この男は。こんな男、振っちゃえよ、アライザ。なんだか、アライザは身勝手な祖父から身勝手な恋人に譲渡されただけのような気がしてなりません

心理療法的な見方をすれば、確かに癒しと解放の物語なのですが、このあらすじを現実的に解釈するとストーカーによって保護者と家を失うというホラーになっちゃうんですよねぇ。

あまりにもあまりな主人公なので、ひょっとして作者は意図的にやっているのかもしれないとすら思える。ま、カウンセリングの過程を象徴化した物語だと思えば許せるか。

主人公以外は、悪役も含めて非常によいです。特にクリスタルの城の描写は一読の価値あり。

(1997.08.05)

書誌情報

書名:『氷の城の乙女 上
著者:フィリス・アイゼンシュタイン/著 井辻朱美/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 225,1997年7月,680円+税,ISBN4-15-020225-7)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

書名:『氷の城の乙女 下
著者:フィリス・アイゼンシュタイン/著 井辻朱美/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 226,1997年7月,640円+税,ISBN4-15-020226-5)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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あの頃私は若かった……1984年の読書日記

20年前(!)の読書ノートが出てきました。懐かしく読み返してしまいました。

アンソール展(1984年1月21日〜2月19日 神奈川近代美術館)、マックス・エルンスト展(1984年2月3日〜2月15日 渋谷東急本店)、ポール・デルボー展(1984年2月3〜26日 新宿伊勢丹)の入場券が貼ってあって、あの頃の私はフットワークが軽かったんだなと思いました。今はもう出不精で。

2月に読んでいたのは、ケイト・ウィルヘルム『杜松の時』(サンリオSF文庫)、トム・リーミィ『沈黙の声』(サンリオSF文庫)、フィリス・アイゼンシュタイン『妖魔の騎士』(ハヤカワ文庫FT)などなど。
マキャフリィ『歌う船』(創元推理文庫)、ヴォンダ・マッキンタイア『夢の蛇』(サンリオSF文庫)も気に入っていた様子。
この頃はまだサンリオSF文庫が健在だったのね。女性SF作家を集中的に読んでいたような気がします。

新井素子『……絶句』の感想は

新井素子『……絶句』を読んで、いやあ、これが面白かったんだ。(上)を夕方買ったので、2時間ほどで読んで(下)がほしくても夜だから買いに行かれないのね。うーーうーーうーーと、禁断症状に悩んで、次の日急いで買いに行きました。

現在とあんまり変らない文体と内容ですな。

日記なのになんとなく読者を意識したような文体なのは、もともとこのノートが交換日記の一種だったから。たまに会う友達に「こんな本読んでたよ」って渡して読んでもらい、自分は友達の読書ノートを読む、というようなことをしていたのです。
友達とノートの交換はしなくなってからも、「未来の自分を含めた誰か」を想定して本や映画の感想を綴る習慣は続いて、今やっているWeb日記(というかウェッブログというか)もその延長線上にあるんだなと思います。

1984年は、147冊の本を買ったり借りたりしていたようです。
この年のマイベストブックは以下の通り。

パトリシア・ライトソン 《ウィラン・サーガ》全3巻
 『氷の覇者』(ハヤカワ文庫FT, ISBN4-15-020062-9)
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 『風の勇士』(ハヤカワ文庫FT, ISBN4-15-020064-5)
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 『水の誘い』(ハヤカワ文庫FT, ISBN4-15-020063-7)
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C・J・チェリイ 《色褪せた太陽》全3巻
 『ケスリス』(ハヤカワ文庫SF, ISBN4-15-010479-4)
 『ションジル』(ハヤカワ文庫SF, ISBN4-15-010484-0)
 『クタス』(ハヤカワ文庫SF, ISBN4-15-010488-3)

フランク・ハーバード 『デューン 砂漠の神皇帝』全3巻
 『デューン 砂漠の神皇帝 1』(ハヤカワ文庫SF, ISBN4-15-010543-X)
 『デューン 砂漠の神皇帝 2』(ハヤカワ文庫SF, ISBN4-15-010545-6)
 『デューン 砂漠の神皇帝 3』(ハヤカワ文庫SF, ISBN4-15-010549-9)

栗本薫 『猫目石』上下(講談社ノベルス)

ヴォンダ・マッキンタイア 『夢の蛇』
(サンリオSF文庫,ISBN4-387-83512-5)
(ハヤカワ文庫SF, ISBN4-15-010780-7)

ジョーン・D・ヴィンジ『琥珀のひとみ』
(創元推理文庫, ISBN4-488-68101-8)
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アン・マキャフリー『歌う船』
(創元SF文庫, ISBN4-488-68301-0)
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都筑道夫『捕物帳もどき』
(文春文庫, ISBN4-16-732002-9)

ナンシー・スプリンガー『白い鹿』
(ハヤカワ文庫FT, ISBN4-15-020068-8)

菊地秀行『吸血鬼(バンパイア)ハンターD』
(ソノラマ文庫, ISBN4-257-76225-X)
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アラン・ガーナー 『ふくろう模様の皿』
(評論社 児童図書館・文学の部屋, ISBN4-566-01083-X)
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カード『エンダーのゲーム』

オースン・スコット・カード『エンダーのゲーム』(ハヤカワ文庫SF)

内容紹介

産児制限で子供が2人しか持てない世界で、遺伝子の優秀さから例外的に出産を赦された<サード>(3人目の意味)のエンダー。昆虫型異星人バガーの襲撃にそなえて設立されたバトル・スクールに6歳で入学した彼は、あらゆる訓練で最優秀の成績を修める。
 一方、彼の兄ピーターと姉ヴァレンタインは、子供であることを隠してネットに論文を発表し、やがて世界を動かすほどの影響力をもつことになる。

コメント

大森望さんと水玉蛍之丞さんが『The BASIC』誌に連載していたイラスト付き対談「辺境の電脳たちエンダーのゲーム」を読んで、読みたくなった本。
読みはじめたら面白くて、そのまま夜中の2時までイッキ読みする。エヴァンゲリオンのルーツは、コードウェイナー・スミスじゃなくて、こっちだよね。

主人公のエンダー君は天才少年で、司令官としての才能を開花させるために教官たちは彼をわざと孤立させ苛められるように仕向けたりする。エンダー君は小学生の身で悩んで悩んで戦わなくてはならないわけです。

最後の章では、話はただの戦争物で終わらず妙な方向へと続きます。ハインラインの『宇宙の戦士』のアンチテーゼといえるかもしれません。

水玉蛍之丞さんが好きだという、エンダーの兄ピーターは、実に特異なキャラクター。『羊たちの沈黙』のレクター博士の少年版というか、なんというか…。

私はこういう学校物?が好きみたいです。アン・マキャフリィの《パーンの竜騎士》シリーズでも、竪琴師の学校の出てくる外伝の方が好きだし、ゲド戦記も1巻目の魔法使いの学校のシーンが好き。もちろんハインラインの『宇宙の戦士』も好きだし、氷室冴子の『クララ白書』(コバルト文庫)も『あしながおじさん』も大好き。
こういうのって、物語の中でイジメがあってもちゃんと解決つくからいいよね。

(1997.08.24)


書誌情報

書名:『エンダーのゲーム
著者:オースン・スコット・カード/著 野口幸夫/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 746,1987年11月,880円+税,ISBN4-15-010746-7)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

続巻および外伝として以下の本がある

死者の代弁者 上
(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 884,1990年8月,640円+税, ISBN4-15-010884-6)
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死者の代弁者 下
(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 885,1990年8月,640円+税, ISBN4-15-010885-4)
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……エンダー・ウィッギンのその後を描く

ゼノサイド 上
(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1072,1994年8月,820円+税, ISBN4-15-011072-7)
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ゼノサイド 下
(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1073,1994年8月,820円+税, ISBN4-15-011073-5)
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……エンダー・ウィッギンのその後のその後を描く

エンダーの子どもたち 上
(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1344,2001年2月,660円+税, ISBN4-15-011344-0)
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エンダーの子どもたち 下
(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1345,2001年2月,660円+税, ISBN4-15-011345-9)
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……エンダーシリーズ完結編

エンダーズ・シャドウ 上
(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1330,2000年10月,720円+税, ISBN4-15-011330-0)
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エンダーズ・シャドウ 下
(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1331,2000年10月,720円+税, ISBN4-15-011331-9)
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……『エンダーのゲーム』を別の人物の視点から描く

シャドウ・オブ・ヘゲモン 上
(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1463,2003年11月,700円+税, ISBN4-15-011463-3)
bk1/amazon/Yahoo
シャドウ・オブ・ヘゲモン 下
(早川書房 ハヤカワ文庫 SF 1464,2003年11月,700円+税, ISBN4-15-011464-1)
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……『エンダーズ・シャドウ』の続編

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高野史緒『カント・アンジェリコ』

高野史緒『カント・アンジェリコ』(講談社)

カント・アンジェリコ

内容紹介

ヨーロッパ全土に電話網が張り巡らされ、電飾まである18世紀初頭のパリを舞台に、カストラート(去勢歌手)に国を失った王女、女王陛下の国からきた謎のご隠居(笑)、電気屋の枢機卿、ハッカー崩れの殺し屋などなどが跳梁跋扈するお話。クライマックスに至っては、オペラの舞台で文字どおりのディオニッソス饗宴が繰り広げられる。

コメント

前々から気になっていた本で、手を伸ばすきっかけになったのは、インターネットでの書評だった。初めて大原まり子やディプトリー・ジュニアの『接続された女』を読んだときの興奮(20年も前のお話です)を思い出す面白さだった。

男性は仕掛けの方が気になるみたいですが、女が気にするのは、カストラートと音楽とネットワーク・ラブのことだ。
P.219のウラニア王女がルチフェロ(と、ミケーレ)に語り掛ける言葉にたいていの女性は同意することと思うんだけど。

そう私たちはそうであるあなたたちを受け入れます。だけど……問題はそいういうことじゃなくて……あなたたちが、それが如何に問題でないかを決して信じようとしないことです……

私には音楽方面の知識があまりないので、作者が仕掛けた引用の元ネタがあまりピンとこなかったのが残念。『トゥーランドット』と『魔笛』と『忠臣蔵』は判りましたけど。それから、なぜか『トーマの心臓』のエーリックがちらちらします(「チャオ。こちらは天使。あなたはどなた?」)

あと笑ったのは、p.126。座右の銘にしようかな。

彼の詩に感動しないからといってその凡才をくさす前に、読み手としての己の凡庸さに思いを馳せてみるのも、そう悪いことではないだろう。

英国の謎のご隠居、レスリー卿が好み。(爺さまが好きなの)007についてちょっとだけ言及されるので、ショーン・コネリーかなと思いましたが、ローレンス・オリビエの方がイメージかも。

(1997.06.21)

2003年12月現在、ハードカバーは絶版で入手が困難。文庫化の話はどうなったかなぁ。

書誌情報

著者:高野史緒
書名:『カント・アンジェリコ』
書誌:(講談社 ,1996年8月,1748円+税,ISBN4-06-208327-2)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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久世光彦『怖い絵』

久世光彦『怖い絵』(文春文庫)

怖い絵

内容紹介

"怖い絵"と文学作品をモチーフにした私小説風連作短編集。テーマは死とエロスである。
「姉は血を吐く、妹は火吐く」「『死の島』からの帰還」「蝋燭劇場」「『二人道成寺』の彼方へ」「陰獣に追われ追われて」「誰かサロメを想わざる」「去年の雪いまいずこ」「豹の眼に射抜かれて」「ブリュージュへの誘い」という各タイトルが示すように、判る人には判るしかけがいっぱいである。


コメント

「姉は血を吐く、妹は火吐く」「陰獣に追われ追われて」「豹の眼に射抜かれて」といった、同性愛の匂いのする作品が面白かった。

ハードカバー版には、各作品で言及されている"怖い絵"の図版も収録されている。(文庫版は未見なので不明)
私が一番怖かった絵は甲斐庄楠音(かいのしょう・ただおと)の『二人道成寺』。確かに「穢い(きたない)」といわれて大正画壇を追放されたというだけのことはある気色悪い凄い絵。竹中英太郎の「陰獣」の絵も怖い。

でも、一番怖いのは単行本の装丁だった。ベージュの紙に黒く「久世光彦 怖い絵」と書いてある。さらに良く見ると「怖い絵」と大きく型押ししてある。このシンプルさが、なぜかとっても怖かった。

甲斐庄楠音の絵は後に岩井志麻子『ぼっけえ、きょうてえ』(角川書店)の表紙と口絵に使われた。インタビューによれば、岩井志麻子が甲斐庄楠音を知ったのは、この『怖い絵』がきっかけだったらしい。

書誌情報

著者:久世光彦
書名:『怖い絵』
書誌:(文芸春秋 文春文庫,1997年2月,660円+税,ISBN4-16-758101-9)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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キャロル『死者の書』

ジョナサン・キャロル『死者の書』(創元推理文庫)

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内容紹介

敬愛する童話作家マーシャル・フランスの伝記を書くため、作家の娘が住んでいる町を恋人とともに訪れたトーマス・アビイ。気さくで愛すべき人々が住む平凡な田舎町は、ある少年の事故をきっかけに「奇妙な」姿をあらわし始める……。

コメント

ホラー文庫華やかなりし頃発行され、"ファンタジー・ホラー"と呼ぶ書評が多かったので、すごく怖いんだとばかり思ってびくびくしながら読んだ。おかげで、ちょっと怖かった。読んでみたらそれほど怖い話ではなく、形態としては恋愛小説なのだった。 先入観なしで読んだら、もしかしてファンタジーだと感じられたかもしれない。実際、「あれはファンタジーでしょ」と言いきる人もいるのだ。

ひとりの物語作家の作品に魅せられた男の話である。本好きの人は身につまされるとみえて、冒頭の古本屋のシーンを絶賛する人が多い。

原題にも邦題にも仕掛けがある。ラストやテーマが作家の創造力であることを考えると、邦題より、原題のほうがいいと思う。ホラーっぽい邦題は、題名だけで怖い。

(1997.06.05)

書誌情報

書名:『死者の書』
著者:ジョナサン・キャロル/著 浅羽莢子/訳
書誌:(東京創元社 創元推理文庫 547-1,1988年7月,760円+税,ISBN4-488-54701-X)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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ロビンソン『思い出のマーニー』

ジョーン・ロビンソン『思い出のマーニー』上下(岩波少年文庫)

思い出のマーニー

内容紹介

自分の殻に閉じこもり環境不適応を起こして、海辺の村に預けられたアンナ。彼女は不思議な少女マーニーと友達になるが、やがて……。

コメント

読み終わった後しばらく、「あっち」の世界から戻ってこれなかった。子供の頃ならともかくこの歳でこういうことがあろうとは!優れた児童文学は、本当にとんでもない力を持っているものだと思います。
児童文学ガイドでは必ずといっていいほど出てくる作品ですが、確かにそれだけのことはある名作。

アンナが自分の殻に閉じこもるのは、拒否されるのが怖いから。彼女は自分と他の人との間に常に見えない壁を感じている。

なぜかというと、ほかの人たちは、みんな"内側の人"----なにか、目に見えない魔法の輪の内側にいる人だからです。でもアンナ自身はその輪の"外側"にいました。だから、そいういうことは、アンナと関係のないことなのでした。

一度でもアンナと同じように感じたことのある人なら、読んでみる価値があります。
そうでない人(っていうのは、ネット上には少ないと思うけど)も、海の匂いや葦の生えた水際の感触や海どりの声を感じるために、お読みください。

(1997.06.04)

書誌情報

書名:『思い出のマーニー 上』
著者:ジョーン・ロビンソン/作 松野正子/訳
書誌:(岩波書店 岩波少年文庫 110,2003年7月,640円+税,ISBN4-00-114110-8)
ネット書店リンク:上巻【bk1/amazon/Yahoo

書名:『思い出のマーニー 下』
著者:ジョーン・ロビンソン/作 松野正子/訳
書誌:(岩波書店 岩波少年文庫 111,2003年7月,640円+税,ISBN4-00-114111-6)
ネット書店リンク:下巻【bk1/amazon/Yahoo

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スコット『魔術探偵スラクサス』

マーティン・スコット/内田 昌之訳『魔術探偵スラクサス』 (早川書房 ハヤカワ文庫 FT)

魔術探偵スラクサス

内容紹介

主人公のスラクサスは、魔法の国トゥライに住むデブで大食い、大酒飲みで、借金だらけの三流魔法探偵。ある日舞込んだ依頼は、単純なスキャンダルのもみ消し……のはずだったのに、死体は出てくるは、謎の集団は次々襲ってくるはの大騒ぎ。どうやら国中を揺るがす魔法の赤布紛失事件に巻き込まれたらしい。

コメント

私立探偵物のパロディをファンタジー世界でやってみましたという話。楽しかったです。主人公が地道に捜査している部分の方が好きだったので、最後の派手な魔法のドンパチはやりすぎって気がしました。

主人公の相棒で、三種族(エルフとオルクと人間)の混血の筋肉美人なウェートレスのマクリたんが可愛いっす。

軽いノリで楽しめるユーモア・ファンタジー。《マジカルランド》シリーズが好きな人におすすめ。

書誌情報

書名:『魔術探偵スラクサス』
著者:マーティン・スコット/著 内田昌之/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 306,2002年2月,680円+税,ISBN4-15-020306-7)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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ブルックス『妖魔をよぶ街』

テリー・ブルックス『妖魔をよぶ街』上下(ハヤカワ文庫FT)

妖魔をよぶ街

内容紹介

イリノイ州ホープウェルに住む少女ネストは、祖母の血筋から魔力を受け継ぎ、森の精とともにホープウェルの公園を守っていた。だがある年の夏、ホープウェルの町に不穏な雰囲気が立ち込め、ネストの前には見知らぬ訪問者がつぎつぎと現れた。

コメント

20倍に薄めたキング『IT』+2倍に薄めたマーガレト・マーヒーといった趣。面白かったのですが、この手のモダン・ファンタジー(あるいはアーバン・ファンタジー)が好みなだけに、点が辛くなってしまいます。あともう一歩で傑作!って感じなんだけど、どこか物足りない。ジョン・ロスのキャラクターはすごくいいのに、そのほかのキャラクターが一味足りないというか……。もうすこし、こう緊迫感とか恐怖感があってもいいと思うんですけれど、感情移入しにくいったら。視点がネストとボブせんせいとジョン・ロスの間で移り変わるのが原因かもしれません。

 原題の RUNNING WITH THE DEMON は、たいへん意味深なタイトルなんですが、日本語には移し難いですよね。 DEMON は 「デーモン」と訳してありましたが、DEVIL とはどう違うのかなと思って、調べてみました。
DEVILは、「悪魔, 悪鬼, 魔神」で善/神と対立するものだけれど、 DEMONは、「鬼神」、荒廃させるものであると同時に神と人との間の存在でもあるようです。『研究社 新英和大辞典 第五版』をひっくりかえしたら、もとはギリシャ語のdaimon = genius, denity 原義は distributor of men's destinies (人間の運命を分けるもの/与えるもの)なんて出ていて、やっぱり意味深と思いましたです。

(2000.01.08)

書誌情報

書名:『妖魔をよぶ街 上』
著者:テリー・ブルックス/著 井辻朱美/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 268,1999年12月,660円+税,ISBN4-15-020268-0)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

著者:『妖魔をよぶ街 下』
書名:テリー・ブルックス/著 井辻朱美/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 269,1999年12月,660円+税,ISBN4-15-020269-9)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

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コリンズ『ミッドナイト・ブルー』

ナンシー・A.コリンズ『ミッドナイト・ブルー』(ハヤカワ文庫FT)

ミッドナイト・ブルー

内容紹介

Tシャツの上に黒の革ジャン、懐には銀のナイフを忍ばせ、美しい顔には常にミラーのサングラスをかけた女。彼女の名はソーニャ・ブルー。この地球に存在する〈真世界〉に棲む吸血鬼たちを次々に倒してゆく、怖るべき力を秘めたヴァンパイア・ハンター。 英国幻想文学賞/ブラム・ストーカー賞受賞作。

コメント

読みはじめて改めて「ハードボイルドの文体」というものを実感しました。どうやら、私はタニス・リーなどの装飾過多な耽美な文体にいささか飽きてきていたらしく、簡素な文体がとても心地よかったです。 「過激な暴力、過激なセックス描写」という前評判にちょっと腰がひけてましたが、読んでみると、「こんなもん?」 確かにファンタジーとしては画期的かもしれないけれど、私はミステリや菊地秀行で鍛えられているからなぁ。これでびびってたら『羊たちの沈黙』は読めないです。(笑)

ソーニャ・ブルーは魅力的。「彼女」の暴力を読んで、なんだかスッキリしてしまった私は、結構ストレス溜まっていたのか?

サラ・バレッキーに菊地秀行を足したようだと思いましたが、もしかしてこの形容はファンタジーファンには通じないのかも。ネットサーフィンしていて思ったのは、最近の読者って、SFとミステリとファンタジーとホラーにくっきり分かれていて、あんまり守備範囲外の本に手を出さないらしいってことですね。栗本薫みたいな人はだんだん少なくなっていのかしら。

この作品は、それらのどのジャンルのファンからも支持される可能性をもっていると思います。だから、売れてるのね、きっと。

(1997.05.31)

書誌情報

書名:『ミッドナイト・ブルー』
著者:ナンシー・A・コリンズ/著 幹遥子/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 229,1997年1月,720円+税,ISBN4-15-020229-X)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo

続巻および外伝として以下の3冊がある

  • 『ゴースト・トラップ』
    (早川書房 ハヤカワ文庫 FT 233,1997年5月,680円+税, ISBN4-15-020233-8)
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  • 『フォーリング・エンジェル』
    (早川書房 ハヤカワ文庫 FT 235,1997年8月,680円+税, ISBN4-15-020235-4)
    bk1/amazon/Yahoo
  • 『ブラック・ローズ』
    (早川書房 ハヤカワ文庫 FT 253,1998年10月,680円+税, ISBN4-15-020253-2)
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マクドナルド『黎明の王 白昼の女王』

イアン・マクドナルド『黎明の王 白昼の女王』(ハヤカワ文庫FT)

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内容紹介


三部構成になっていて、第一部は、1913年に一人の少女が森で妖精と出会い失踪するという事件を日記や書簡、新聞記事などで構成し、第二部は、1930年代のダブリンの少女が妖精の国へ連れ去られようとするのを、彼女の「守護者」と父親が阻止しようとする話。第三部では、現代を舞台に第二部の主人公の少女の孫が彼女を連れ去ろうとする"ファーガス"(これが妖精の正体らしい)と戦う。

コメント

妖精物語っぽい表紙に騙されてはいけない。これは、フィリップ・K.ディック記念賞受賞作なのだ。そのつもりで、読み始めること。

いかにも男流SF作家の書いたファンタジーであったが、最後に至って立派に癒しのファンタジーとなった。途中で投げてはいけないですね。確かに90年代を代表する名作になるかもしれない。

第二部の文体が変だと思ったら、ジェイムズ・ジョイスの文体模写をやっているかららしい。また、ここで出てくる二人の浮浪者は『ゴドーを待ちながら』のパロディだと思う。一瞬、『ランボー』の姿もよぎる。
基本アイデアは『ミサゴの森』(私は未読)のいただきではないか、という指摘もあるようだが、

リミックスだ。すべてがリミックスなんだよ。分解し、分析し、サンプリングし、ふたたびいっしょにする。 (p.498)

なんて書いているところを見ると、意識的にやっているのだろう。

(1997.05.27)

書誌情報

著者:『黎明の王白昼の女王』
書名:イアン・マクドナルド/著 古沢嘉通/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 203,1995年2月,980円+税,ISBN4-15-020203-6)
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宮部みゆき『淋しい狩人』

宮部みゆき『淋しい狩人』(新潮社)読了。

古本屋のおじいさんとその孫を主人公の連作短編集。
虐待を受けた子供がある本を万引きすることでSOSを発する「うそつき喇叭」と、本の間に挟んであった名刺をめぐる物語の「歪んだ鏡」が印象に残りました。

宮部みゆきの作品には、「うそつき喇叭」の犯人や『レベル7』の極悪人や『夢にも思わない』の"彼女"など、自分の罪を他人に押し付けて自分は清廉潔白なふりをする人間というのが、随分出てくる気がします。

本の間に挟んであったといえば、私は図書館の本の間に領収書を見つけたことがあります。金額も名前もばっちり書いてある。いいんですかね~、悪用されちゃってもしらないよ。

(1997.02.23)

書誌情報
宮部みゆき
『淋しい狩人』
新潮社 新潮文庫
1997年2月
514円+税
ISBN4-10-136917-8


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加藤典洋『言語表現法講義』

加藤典洋『言語表現法講義』(岩波書店) 読了。

現代にふさわしい文章の書き方を説く、講義録の形をとった「活字による模擬授業」。
考えを書き留めるのではなく、書くことによって考えるのだとか、文章の最後の美辞麗句は文章全体を殺してしまうとか、推敲には二つあって、他者の目で批判的に見ることと自分で書いたものを暖かく見守ることの両方が必要だとか、目ウロコな話が満載です。

おすすめ。

(1997.02.17)

書誌情報
加藤典洋『言語表現法講義』
岩波書店 岩波テキストブックス
1996年10月
2,300円+税
ISBN4-00-026003-0

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谷山由紀『天夢航海』

谷山由紀『天夢航海』(朝日ソノラマ ソノラマ文庫)読了。

本屋のレジの脇にひっそりと置かれた同人誌『天夢界紀行』。それは、どこか別の星にあるパラダイス天夢界からの迎えの船を待つ異邦人たちの物語だった。
天夢界にあこがれる少女は、冊子に挟み込まれた船のチケットを手に入れるが……。

「この世界」になじめず、自分がホントウに属する世界にあこがれる「異邦人」たちを描いた連作短編集。最初の短編のタイトルの「ここよりほかの場所(That Special Place)」というので分かる人にはわかってしまうお話です。
 この手のものは、全然わからない人とすごく好きだと思う人と嫌悪する人に分かれちゃうんでしょうね。私はとても好きです。読む前から多分気に入るだろうということは解っていました。「痛い」話でありますが、中学時代の私に読ませてあげたかったなと思います。
「こんなのは逃避だ!」と断罪する人もいるでしょうが(赤木かん子あたりが何かいいそうだ)、これは逃げないで生き抜くためのサバイバルブックの最初の一冊なんだと思います。

気に入らない人は棄てずにブック・オフなり地下鉄の文庫コーナーなりに流してください。こういう本を必要としている人のところにちゃんと届くように。

書誌情報
谷山由紀『天夢航海』
朝日ソノラマ ソノラマ文庫 826
1997年11月
490円+税
ISBN4-257-76826-6

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天夢航海(谷山由紀) 復刊リクエスト投票

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飯田雪子 『再生のとき』

飯田雪子『再生のとき』(プランニングハウス)読了。

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感想

 肝試しに行った古い病院で見た女性の幽霊。彼女の悪夢に取り付かれた中学生の果奈は、友人たちとともに真相を探るが……。

 冒頭のモノローグを読んだときには、「あちゃ?」と思いましたが(←ライトノべルにはよくある手で、いささか食傷気味だった)、そこそこ上手くまとまっていました。
 主人公の果奈になついているのが、幼なじみの弟の小学生というのが、ちょっと白泉社系漫画?って気がします。でも、どっちが兄でどっちが弟か、わからなくなったりしたので、名前の付け方がまずかったなぁと……。兄が翔太で、弟が洸二なんだけど、翔一と洸二だったらわかりやすかったのに。あ、でもフツーは、「○太」っていうのは、長男につける名前なのかな? 私のイメージだと、「○太」ってのは半ズボンの男の子なので、混乱したんですよ。だって、ショタコンっていうぐらいだし……、ねぇ。
(1999/05/26)

書誌情報

飯田雪子『再生のとき』
プランニングハウス ファンタジーの森
1999年2月
800円+税
ISBN4-939073-08-4

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