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小川洋子『薬指の標本』

小川洋子『薬指の標本』(新潮文庫)読了。

感想

新潮文庫の新刊案内によれば、「彼に贈られた靴はあまりにもぴったりで……恋の痛みと恍惚を描いた二編」というのだが、そういう話なのか、そういう話なのか、これ?

 表題作と「六角形の小部屋」が収録されている。どちらも心の中にある何かから解放されるための場所へ「呼ばれて」しまう若い女性の物語である。

 表題作に出てくるのは「標本室」という場所で、人はそこへ封じ込めたい「何か」を持ってやってくる。主人公の事故で薬指の先をなくしてしまった女性は、その標本室で事務員として働いている。彼女と標本室の経営者である弟子丸氏とは、ある関係にあるのだが、それを「恋」と言い切ってしまうのは、ずいぶんと乱暴であると思う。ふたりの関係は、エロスというよりタナトスの側に偏っているように思えるからだ。
 標本室に集まるモノはどれもアヤしく、標本技術士である弟子丸氏も彼の標本技術室も限りなくアヤしいのではあるが、実際に非日常的な事件がおこるわけではない。しかし全体の雰囲気は幻想小説かホラーに近いものがあって、読む人によっては恐怖を覚えることもあるかもしれない。

書誌情報

書名:『薬指の標本
著者:小川洋子
書誌:(新潮社 新潮文庫,1998年1月,380円 (税込)+税,ISBN4-10-121521-9)
Amazon.co.jp: 薬指の標本 (新潮文庫): 小川 洋子: 本

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