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山之口洋『オルガニスト』

山之口洋『オルガニスト』 (新潮社 新潮文庫,2001.9,\552+税)

 amazon:オルガニスト

紹介

音大助教授のテオが手に入れた、ハンス・ライニヒという天才オルガニストの録音ミニディスク。ライニヒの演奏はテオのかつての親友で、九年前に事故で半身不随となりオルガニストとしての将来を絶たれたヨーゼフの演奏を思い起こさせた。果たしてライニヒは、ヨーゼフなのか?
第10回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

単行本版の感想

山之口洋『オルガニスト』(新潮社)読了。これは凄い。

なんとなく歴史物を想像していたので(『ムジカ・マキーナ』からの連想?)、舞台が現代(というか近未来?)で、いきなり電子メールが出てくるのには面食らった。音楽青春物といった雰囲気の前半部分は、あまり事件らしい事件が起こらないせいもあって、ストーリーより文体の方が気になっていた。装丁がいかめしいので、堅苦しい文体を予想していたのだが、文章は非常に読みやすい。ときどき妙な違和感を感じるのは、果てしなく独白に近い文体を使用しながら、三人称を使っているせいだったらしい。「私」という人称を期待していると、「テオは……」と来るので、ちょっと肩透かしを食らったような。たまに出てくる比喩表現が面白いと思った。やりすぎるとイヤミになるが、イヤミにならない量であると思う。「プロトコル」の語の使い方に、思わずニヤリ。でも、フツーの人の語彙にはないんじゃないでしょうか、「プロトコル」(笑)。

(以下ネタバレと思われる部分は伏字にする。伏字の内容はリンク先参照)
ラインベルガー教授が○○(*1) するところから、物語に引き込まれ、あとは一気。ミステリーからSF、SFからファンタジーへの展開は圧巻。 ○○○○○(*3)を予想していたので、○○○○○(*4)。でも、これってもしや『○○○』(*2)?

残念なのは、音楽に疎い私には、作中に出てくるバッハの曲がどういう曲なのかさっぱりわからないことで、ひょっとしたら、この作品の美味しいところを何割か逃しているのではないかという気がしています。
(1999.05.10)

文庫本版の感想

山之口 洋『オルガニスト』 (新潮社 新潮文庫,2001.9,\552+税)読了。


第10回日本ファンタジーノベル大賞受賞作の文庫化。文庫化にあたり大幅に改訂を施したとのことで、筋は変わらないものの、三人称だったものが、テオドールの一人称に変わり、いくつかの表現も変えられている。
ハードカバー版で私がひっかかった点は、ほとんど書き直されていたので、すんなりと物語に没入することができた。
(私が気になった「プロトコル」は「仲間意識」に変更されている。文庫版 p.41)

瀬名秀明の解説にもあるように、一人称に書き換えられたことによって、「ミステリー仕立てのサイエンスファンタジー小説」(私は最初この作品をそう読んだ)や「音楽小説」というよりは、「青春小説」としての面がよりはっきりしてきた。
この作品はテオとヨーゼフとマリーアという音楽を中心に結ばれた3人のあやういところでバランスをとっていた三角関係の物語であったのだ。そして三角形の頂点は、女性のマリーアではなく、ヨーゼフだったり、テオだったりする。

萩尾望都の作品に似てると思う。たとえば『十年目の鞠絵』や『マージナル』のゴーとイワンとアーリンの関係に。
作者自身が某掲示板で登場人物のイメージに萩尾望都のキャラクターを挙げているから、なんらかの影響を受けているのは間違いないだろう。なにしろ名前からしてテオドール・ヴェルナーなのだから。
(ハードカバー版を読んだときは全然気がつかなかった。テオドールは萩尾望都『小鳥の巣』の眼鏡の委員長。もっとも、『オルガニスト』のテオは、萩尾望都がもともとこの名をつけたかったという「錆びた栗色の髪の青年」を思わせ。ヴェルナーは、『トーマの心臓』のトーマ・ヴェルナーだ!)

というわけで、ハードカバーもっている人も買うべし。
表紙が怖いという人もいるけれど、建石修志画伯なんだからーそんなに嫌わないでー。

蛇足。萩尾望都キャラによる漫画版『オルガニスト』案
テオ……オスカーの入っているイアン
ヨーゼフ……ユーリとエーリックをブレンドしたジェルミ
マリーア……ナディア
音楽雑誌記者……ゴー博士
ラインベルガー教授……ペーブマン
あとのキャラは選定中


書誌情報

書名:『オルガニスト
著者:山之口洋
書誌:単行本 (新潮社,1998年12月,1680円,ISBN4-10-427001-6)
書誌:文庫版 (新潮文庫,2001年9月,579円,ISBN4-10-101421-3)

Amazon.co.jp: オルガニスト (新潮文庫): 山之口 洋: 本


伏字内容






*1 爆死
*2 『歌う船』
*3 悲劇的結末
*4 ある種幸福な結末にほっとしました
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