メリング『妖精王の月』
O.R.メリング『妖精王の月』(講談社)
内容紹介
タラの丘でキャンプした夜、少女グウェンの従姉妹フィンダファーは妖精王に攫われてしまう。グウェンは、彼女を連れ戻すため、妖精たちとの出会いに助けられながら、アイルランド北部の旅をつづけるが……。
コメント
現代のアイルランドにフェアリーランドが重なりあっているという設定がお見事。妖精たちはTシャツにジーンズ姿で街に現れたり、おんぼろ車でヒッチハイカーを拾い上げたりするのだ!冒頭のダブリン市で妖精王が使う魔法のシーンもすばらしい。クリスティーナ・ロセッティの『妖魔の市』を思わせる少女と妖精たちとのゲーム(ちゃんと食べ物のタブーが出てくる)も面白いし、「土地の王」がいまだに存在しているという設定もいい。
が、妖精たちはともかく、人間たちの人物造型が弱いのが残念。とくに主人公のグウェンの性格がいまひとつはっきりしない。「妖精物語」の主人公たちの行動をなぞるだけの薄っぺらな存在ではなく、もうすこし「小説」的な深みのある存在感が欲しかった。(マーガレット・マーヒーやデイアナ・ウィン・ジョーンズあたりと比べるとそのキャラクター造型の弱さが歴然)
せっかく妖精と人間の愛というワタクシ的ツボ押しテーマを扱っているのに、なんか「キャラ萌え」しにくい登場人物たちなのが、とても残念。 (少女漫画にしちゃえば、これでもOKだったかも。)
現代に生きる妖精たちの存在感はすばらしいので、一読をお薦めいたします。
これを読んで、アイルランドの風景を見たくなりました。
(1999.02.12)
書誌情報
書名:『妖精王の月』
著者:O.R.メリング/作 井辻朱美/訳
書誌:(講談社 ,1995年2月,1500円+税,ISBN4-06-207463-X)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo】
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント