新井素子『くますけと一緒に』
新井素子『くますけと一緒に』(新潮文庫)
内容紹介
ひとりぼっちの少女・成美の味方は、ぬいぐるみの"くますけ"だけ。くますけは成美とおしゃべりができる特別なぬいぐるみだ。でもこのことは誰にも内緒。事故で両親を亡くした成美は、ママの友達・裕子おばさんの家に引き取られることになった。裕子おばさんは、くますけにも優しくしてくれる。だけど、ある日、夢にパパとママが出てきて、自分たちを殺したのはくますけだって言うの。どうして!?本当にくますけが殺したの?
コメント
親に愛されず親を愛せなかった子供がぬいぐるみの力で、新しい両親を手に入れるというぬいぐるみホラーファンタジー。かわいらしい話というだけでは済まない怖さがあります。
私は新井素子の小説を巧いと思ったことは一度もないのですが、にもかかわらず彼女は他の少年少女ノベルズの作者とは違うホンモノの作家だと感じています。あのぽわぽわした文体や脳天気な筋や作者自身のキャラクターからは想像もつきませんが、時折作品にすさまじいほどの深くて暗い淵が見えるのです。ホンモノは、そういう淵からしか汲みあげられないのかもしれません。
新潮文庫版の解説は菅浩江。この解説者のセレクトはお見事だと思いました。ACの話だからこれ以上の解説者はいませんわなぁ。
(1998.02.10)
これが児童文学であれば、主人公は「成長」してくますけから離れるんでしょうけれど、そうはならないところが「ホラー」であります。
自分の価値観にひきこもってしまうあたりが、いかにも現在にふさわしいラストではないかと思います。もっとも親本の大陸書房版が書かれたのは1991年ですが。さすがは「ホンモノ」、先見性がある。
2001年に徳間書店からデュアル文庫版が出ましたが、もう新刊書店では入手不可のようですね。
書誌情報
書名:『くますけと一緒に』
著者:新井素子
書誌:(新潮社 新潮文庫,1993年3月,438円+税,ISBN4-10-142602-3)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo】
書誌:(徳間書店 徳間デュアル文庫,2001年10月,562円+税,ISBN4-19-905077-9)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo】
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