アイゼンシュタイン『氷の城の乙女』
フィリス・アイゼンシュタイン『氷の城の乙女』 (ハヤカワ文庫FT) 読了。
内容紹介
金属と織物をつかさどる魔法使いクレイは、見る者の心の望みを映す鏡に小さな少女の姿を見た。何年か経つうちに少女は、麗しい乙女へと成長し、クレイは乙女の正体を求めて旅にでる。探し当てた乙女アライザは、氷の城に住む、魔法使い見習いだった…。
『妖魔の騎士』の続編。
コメント
面白いんだけど、主人公のクレイ・オルモルの独善ぶりが鼻について鼻について、腹が立つ。妖魔たちは魅力的だし、ヒロインも悪くないし、クリスタルの城の描写なんてすばらしいんだけど、主人公がねぇ〜〜。
前作の『妖魔の騎士』は、少年の自分探しの話でもあるから、主人公が馬鹿であっても一向にかまわないんだけど、今度は他人の心にずかずかと踏み込んで自分の価値観を押し付ける話なんだから許せない。言っていることは正論だけど、やっていることはキャッチセールスや新興宗教の勧誘とおんなじ。
ナンパしにきたのに格好つけるんじゃないっ!とか、偉そうに他人の生活に口出しすんなっ!とか、危ない仕事を他人に押し付けんなっ!とか、自分だけが正しいと思ってんのか馬鹿っ!とか、止めてくれということを勝手にやっておいて女に尻拭いさせるなっ!とか、まだまだ言いたいことはいろいろあるのですが、これくらいで止めておきます。
後半でついにヒロインも爆発するけど、全然応えてないと思うぞ、この男は。こんな男、振っちゃえよ、アライザ。なんだか、アライザは身勝手な祖父から身勝手な恋人に譲渡されただけのような気がしてなりません
心理療法的な見方をすれば、確かに癒しと解放の物語なのですが、このあらすじを現実的に解釈するとストーカーによって保護者と家を失うというホラーになっちゃうんですよねぇ。
あまりにもあまりな主人公なので、ひょっとして作者は意図的にやっているのかもしれないとすら思える。ま、カウンセリングの過程を象徴化した物語だと思えば許せるか。
主人公以外は、悪役も含めて非常によいです。特にクリスタルの城の描写は一読の価値あり。
(1997.08.05)
書誌情報
書名:『氷の城の乙女 上』
著者:フィリス・アイゼンシュタイン/著 井辻朱美/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 225,1997年7月,680円+税,ISBN4-15-020225-7)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo】
書名:『氷の城の乙女 下』
著者:フィリス・アイゼンシュタイン/著 井辻朱美/訳
書誌:(早川書房 ハヤカワ文庫 FT 226,1997年7月,640円+税,ISBN4-15-020226-5)
ネット書店リンク:【bk1/amazon/Yahoo】
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